プライベートほど仕事の結果に結びつくものはない

家庭内での奥様との関係が、仕事に大きな影響を与えるということがある。激しい夫婦喧嘩が続いたり、その結果として離婚問題などが持ち上がったり、そういう夫婦関係の悪化はすなわち生活環境の悪化につながるため、当人は心身ともに疲弊して、仕事に集中できなくなって当然だろう。働く者にとって、家庭環境の整備は重要な課題だ。

したがって、仕事で多くの部下を抱える組織のトップは、部下の能力を最大限に活用するために、彼らの家庭環境にも目を配る必要がある。プライベートと仕事は別だと主張する人もいるが、実際はプライベートほど仕事の結果に結びつくものはない。

阪神やオリックスで監督を務めた岡田彰布氏、選手の奥様との関係まで細かく観察

プロ野球の監督もそうだ。彼らは自軍の全選手の能力や状態だけでなく、プライベートの状況についても詳細に把握するという。中でも、かつて阪神やオリックスで監督を務めた岡田彰布氏は、そういったデータの記憶力に長けていることで有名だ。監督時代の岡田氏は全選手の生年月日や血液型などの個人データだけでなく、その選手の奥様との関係まで細かく観察しており、それらを采配の根拠にすることもあった。

たとえば、2004年~2008年の阪神監督時代のことだ。

ある日の夜、試合終了後にいつものように車を走らせていた岡田監督が、たまたま通りがかったコンビニエンスストアの駐車場に、見たことのある車が停まっていることに気づいた。それは某一軍選手の愛車である。ナンバーを見る限り、間違いない。

その選手はここ数年不振を極めていたものの、岡田監督としては彼の潜在能力を高く評価しており、だからこそ復活に期待していた。しかし、以降もそのコンビニの前を通りがかると、彼の愛車が停まっていることが何度かあり、岡田監督は不審に思ったという。

なぜなら、その選手はすでに結婚していたからだ。

結婚して家庭を築いているはずのプロ野球選手が、試合後の夜にコンビニで頻繁に買い物をしている。アスリートを支える奥様との関係が良好なら、そんなことが何度もあるだろうか。たまの一回や二回ならともかく、ほぼ毎日なのだ。

コンビニで飲食類を買い込む選手のトレード放出を決意

岡田監督はなんとなく腑に落ちない気持ちになり、その選手の夫婦関係を調査した。すると、予想通り彼は奥様と離婚調停中で、別居状態にあったという。だからこそ、彼は独り暮らしの若者よろしく、試合後にコンビニで飲食類を買い込む必要があったのだ。

かくして、岡田監督はその選手のトレード放出を決意したという。夫婦関係がうまくいっていないなら、満足なプレーはできないだろう。ましてや、体が資本のプロアスリートがコンビニの飲食類で生活しているとは言語道断で、とてもじゃないけど復活は期待できそうにない。そう考えた結果、彼のためにも生活環境を一新する必要を感じたのだ。

なるべく早く結婚して自己管理を奥様に任せることを勧める監督も

また、独身の選手に対しては、なるべく早く結婚して自己管理を奥様に任せることを勧める監督も多い。人間とは基本的に自分に甘い生き物であるため、第三者が厳しく自己管理のサポートをしてくれたほうが、好結果が生まれやすいという理屈だ。

たとえば、かつて中日などで活躍した左腕投手・野口茂樹氏は、そんな第三者による自己管理と試合での結果が、密接に結びついていたように感じてしまう選手の一人だ。野口氏といえば、1992年に中日入りすると、6年目の1998年には14勝を挙げ、最優秀防御率賞のタイトルを獲得するなど、一気にエース格となった好投手である。

そんな野口氏が少し変わっていたのは、その生活面だ。野口氏は一軍のエース格となって以降も、なぜか中日の若手選手寮で生活を続けていたのだ。

一般的に選手寮とは、まだ半人前の若手選手の生活を球団が管理するための施設だ。だから寮生の大半は自由を求め、一刻も早く退寮したいと願う。しかし、野口氏は1999年に19勝を挙げる活躍で中日のリーグ優勝に貢献し、シーズンMVPの栄誉に輝いたにもかかわらず、なおも寮生活を続行した。2001年にも最多奪三振と最優秀防御率のタイトルを獲得したが、それでも退寮しなかった。ちなみに、当時の野口氏の年俸は推定1億4千万円だ。

結局、野口氏は03年のシーズン終了後、球団の勧告により、11年目でようやく退寮することになった。若手寮にエース格のベテランがいるのはおかしい、という当然の判断だ。

独り暮らしを余儀なくされた野口氏、成績が一気に下降

これにより、野口氏は独り暮らしを余儀なくされた。当時の彼はまだ独身だったのだ。

すると、不思議なもので成績が一気に下降。その後、巨人、独立リーグと移籍したものの鳴かず飛ばずに終わり、11年限りで引退を発表した。一般的に野口氏が不振に陥った原因は左肘の故障だとされているが、それに加えて不慣れな独り暮らしも関係しているのではないか、と勝手ながら思ってしまう。少なくとも、退寮によって自己管理が難しくなったことは間違いないだろう。早く結婚していたら、それも変わっていたのではないか。

これはプロ野球界だけに限らず、一般社会にも当てはまることかもしれない。仕事で大きな結果を残し、さらに維持していこうと思ったら、なるべく早く結婚して、その伴侶との関係を良好に保つことで、生活環境を整えることも重要だ。もちろん例外はあるのだろうが、一般的には「幸せな結婚」と「仕事の成果」は表裏一体するものだと思う。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。早稲田大学卒業。これまでの主な作品は「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」「雑草女に敵なし!」「Simple Heart」など。中でも「雑草女に敵なし!」は漫画家・朝基まさしによってコミカライズもされた。また、作家活動以外では大のプロ野球ファン(特に阪神)としても知られており、「粘着! プロ野球むしかえしニュース」「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「野球バカは実はクレバー」などの野球関連本も執筆するほか、各種スポーツ番組のコメンテーターも務めている。

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