「超時空要塞マクロス」(c)1982 ビックウエスト

人間ドラマの描かれたファンタジーは、いつでも人を魅了する。1982年に放送開始されたアニメ『超時空要塞マクロス』も、まさにその隊列に加わるだろう。『機動戦士ガンダム』シリーズや『宇宙戦艦ヤマト』と並び、日本漫画史で鮮やかに記されたSFシリーズである。

近未来の宇宙戦争に巻き込まれる。

当時とすれば、作品世界は「未来」だった。1999年、太平洋上の南アタリア島。宇宙から巨大物体が落ちてくる。ここから『マクロスシリーズ』が始まった。

その巨大物体を、人々は宇宙船だと認識する。他の星の脅威に備えるべく、船内に地球統合政府を設立した。世界規模の戦争を経て、その宇宙船は改修される。マクロスと名づけられ、多くの地球人がそこへ住み始めた。

しかし、マクロス進宙式のあった2009年某日、事態は一変する。異星人の「ゼントラーディ軍」が攻め込んで来ると、マクロスが自動的に発砲するのである。実はマクロスは、襲来して来た「ゼントラーディ軍」と敵対する「監察軍」の隠れ兵器だった。地球人は、他の星同士の戦争に巻き込まれることとなる…。

「普通」の主人公、勝気な上官、人気アイドル…異色のキャラたち。

やや突飛に始まったマクロスの世界では、単純ではないキャラクターたちが確かな呼吸をしている。

主人公は一条輝。地球統合政府にいるパイロットだった一条だが、それまでのシャープなヒーロー像とは一線を画す個性の持ち主だ。

マクロスの発砲にも「今の、派手な祝砲ですねぇ」と暢気な声を上げる。繰り広げられる戦いでも最前列から姿を消す…。見方によっては、あまりに「普通」の青年なのである。

もっとも、戦闘機が飛び交う「普通」ではない状況において、「普通」の青年は物語の幅を生み出す存在となる。また、「主人公が強くある必要がない」との見地を提出したという意味では、日本漫画界における貢献度も低くはあるまい。

他の主要人物としては、早瀬美沙とリン・ミンメイを挙げたい。

美沙はマクロスの航空管制主任で、主人公の輝にとっては上司にあたる。厳格な仕事ぶりから「鬼」と謳われ、自分のことを「おばさん」呼ばわりする輝とは口論が絶えない。しかし、一方では不器用な恋に悩むなど、等身大の姿でファンの共感を呼ぶ1人である。

ミンメイは、輝が戦火で出会った奔放な少女だ。宇宙を飛び回るマクロス上では、もともとそこへ住んでいた人がどうにか平凡な暮らしをしようとしているのだが、その艦内のミスコンでミンメイは見事に優勝。一躍、トップアイドルに成長する。劇中の歌は、実際にCD化もされヒットチャートを賑わすなど、輝とは別の意味で日本漫画界に風穴を開けたと言えよう。

キャラクター間の恋模様も必見。

近未来の宇宙戦争、決して強いわけではない主人公…。当時にあっては画期的な作品世界のもと、回を重ねるごとに人間の機微が描かれてゆく。それも、『超時空要塞マクロス』の特徴だろう。時には、主人公が一度も登場しない回があるなど、美沙やミンメイらサブキャラクターが重要視されているのも面白い。

なかでも見物は、異性間の感情の起伏、すなわち「ラブストーリー」の側面だろう。

輝はミンメイを守るために軍に入隊も、当のミンメイはアイドル活動が忙しくなり距離が離れてゆく。一方、戦中に同じ思いを共有した美沙が輝に思いを寄せるも、男社会で育った鈍感な輝がそれに気付くには、あまりに時間がかかる…。従来のSFアニメにあっては珍しい細やかな感情の描写は、広範なマクロスファンの獲得に繋がってゆくのだ。

さて、BS放送のWOWOWでは、このマクロスのアニメ版と劇場版がハイビジョンで放送されている。詳細はこちらをご覧いただきたいが、きれいな画面で作品世界を再確認したい既存のファン、本稿を読んで興味を持った方々など、多くの方にオススメしたい。