夏の風物詩ともいえる全国高校野球が8月22日、前橋育英高校の優勝で終わりました。感動の裏側には、高校球児の1球・1打席を大切にしている職人の努力があります。阪神甲子園球場で、よいグラウンドづくりをしている阪神園芸の「グラウンドキーパー」という職種をご存じでしょうか。
これから、偉大なもうひとつの甲子園物語をお届けしたいと思います。
球児が持ち帰る土の価値は、ここにもありました。
阪神甲子園球場は、黒土と砂の混合土からできており、常に水はけと水持ちのよさを兼ね備えるベストグラウンド状態に保たれています。「常に」をキープすることが大変で、水はけをよくするためには、ピッチャーマウンドを頂点とする勾配を均等に保ち、降雨や散水による水たまりができないよう、しかも乾燥させずに適度な吸水性がある土壌に保つことが必須であり、職人が手塩にかけた土なのです。
土にこだわる想いが、1球入魂を活かしています。
運命を分ける一試合。懸命なスライディングなどで土が凹凸に変化しますので、これを毎試合調整しなければなりません。そこで登場するのが「グラウンドキーパー」という職人になります。最初のべスト勾配に戻すため、トンボと呼ばれるT字型の道具と人の目や触感に頼った熟練の技でならしていきます。
グラウンド整備が機械でなく手作業なのは、人の僅かな感覚でしかわからないグラウンドコンディションを把握するためです。土と語り、土を把握し、生き物のように丁寧に扱う地道な作業。まさに年月を積んだ匠(たくみ)のなせる技で、毎年の全国高校野球は支えられています。この職種につきたいという方がいたら求人募集を待つしかありませんが、熟練の技に触れながら修行できることでしょう。
(ロックスター 上原一子)