新興国ってなに?
"新興国"と聞いて何を思い浮かべるでしょうか? 恐らく世界第2位の経済大国、中国が世界で最も存在感のある新興国と言えるでしょう。また、私たち日本人にとってはアジアの新興国になじみが深く、中国のほかに韓国、香港、東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国の名前が浮かびそうです。
世界に目を向けてみると新興国の範囲は非常に広く、中東欧・中近東ではロシア、ハンガリー、ポーランド、トルコ、中南米ではブラジル、メキシコ、チリ、アフリカでは南アフリカなどがこの仲間に入ります。
新興国よりも発展段階が未成熟な市場は「ニューフロンティア」などと呼ばれ、中東のカタールやクウェート、アラブ首長国連邦、オマーン、アジアではパキスタン、バングラデシュ、アフリカではナイジェリアなどが含まれます。
なお、これら諸国が新興国に入るのか、それともニューフロンティアに入るのかについては流動的で明確な定義はなく、個別の金融商品が定める成長率や人口構成などの基準に従うことになります。ひとつの目安としてモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)が組成するMSCIエマージングマーケット指数に組み入れられているのが新興国、MSCIフロンティアマーケット100指数に含まれるのがフロンティア市場と理解することも可能です。
投資単位としての新興国
さて、有望な新興国市場をまとめる最も有名な言葉のひとつに「BRICs」が挙げられます。これは米投資銀行ゴールドマン・サックス(GS)のエコノミスト、ジム・オニール氏が2001年11月30日付の投資家向けリポートで初めて披露したもので、ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の頭文字を並べて最後に複数形の「s」を付けた造語です。
後に、複数形を表す「s」が南アフリカ(South Africa)を指す大文字の「S」に取って代わり、現在では「BRICS」5カ国が首脳会談を開くなど、国際社会での発言力を次第に強めています。
このほか、GSは2007年、BRICsに次ぐ急成長が期待される11カ国を抽出して「ネクスト・イレブン」と命名。ここにはイラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、メキシコが含まれます。また、人口の多い中国とインド、インドネシアを「チャインドネシア(Chaindonesia)」でひとまとめにした括りもあり、「チャインドネシア株式オープン」というファンドも設定されています。
投資方法
先進国と異なり、新興国市場への投資には規制リスクがつきまといます。つまり、外国人が直接投資できる手段が非常に限られているというデメリットがあるのです。日本の個人投資家でも自由に投資できる代表格は香港市場で、ここでは中国本土や香港の優良企業への投資を香港ドル建てで行うことが可能です。
このほかの新興国への投資は投資信託やETFなどが中心となるほか、個別では米国に上場する米預託証券(ADR)を通じた取引などが挙げられます。ADRでは中国本土や香港企業だけでなく、例えばインドIT大手やASEANのメガバンクなどへの投資も可能。ただ、取引量が小さく商いが成立しにくいこと、為替リスクが生じることなどから、円建てで取引できるETFなどにも人気が集まっています。
以下ではBRICsを中心に個別の新興国市場を概観します。
新興国の雄、中国
日本にとって中国は隣国であり、他の新興国と比べて獲得できる情報も充実しています。その点で最も投資しやすい対象に挙げられますが、最近は同国の経済成長ペースの鈍化が世界経済の足を引っ張ると懸念されています。
2012年の中国の実質国内総生産(GDP)成長率は7.8%と、13年ぶりに8%を割り込みました。そして2013年は、政府が目標とする7.5%を下回る可能性も指摘されています。その背景としては、世界的な景気の低迷が中国の輸出に影響していること、そして政府の進める「構造改革」が内需や投資の伸び悩みにつながっていることが挙げられます。
中国では2013年に最高指導部が世代交代し、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席と李克強(り・こっきょう)首相の率いる新体制がスタートしました。習主席が進める構造改革の目的は、中国経済の「持続可能な成長」を確保すること。ですので、改革を進めることで短期的に経済成長が減速したとしても、ある程度は容認し、改革を断行する考えとみられています。
最近の中国では地方政府の債務問題、「シャドーバンキング(影の銀行)」問題、官僚の汚職問題など、旧体制の下で生じた"うみ"を出し切ろうとする政策が投資に対するリスク要因となっています。
中国経済はさまざまな問題を抱えていて、その是正には相応の"痛み"が伴うとみられます。ですが、ハードランディングは回避できるとの見方が現時点では多い状況。何かと弊害が多いとされる一党独裁の共産党政権ではありますが、その"鶴の一声"で機動的な政策運営も可能という点については、中国の強みと言うこともできるでしょう。
そして、景気が鈍化しているとは言え、欧米や日本など先進国に比べれば、相対的に高い成長率を確保しているのも事実です。これまでのようなハイペースでの成長は難しいでしょうが、長期的な安定成長は今後も続く見通しで、世界経済におけるその重要性も基本的には変わらないとみられています。
インド、ブラジル、ロシア
中国の対抗馬として注目を集めるのがインド。人口は約12億人と、中国(約13億人)に次ぐ世界2位の座を占めています。また、高齢化の進む中国と比べ、労働力の中心となる若年人口の多さもインドの魅力。同国では中間層の台頭が目覚ましく、巨大な消費市場を狙って日本を含む世界各国の大手企業が競い合ってインドに進出しています。
インド投資のリスクとしては、慢性化する物価高、官僚主義に伴うインフラ整備の進展の遅さ、財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」などが挙げられます。ただ、政府と中央銀行は双子の赤字解消とインフレ鈍化を目指して経済改革を推し進めており、将来的にはマクロ環境の改善で投資資金が向かいやすくなる可能性もあります。
資源大国ブラジルでは2014年にサッカー・ワールドカップ、2016年にはリオデジャネイロ五輪が開催されます。すでにワールドカップに向けたインフラ整備が進められており、世界的なイベントから受ける経済的な恩恵が投資先としての魅力向上につながっています。最近は資源消費大国である中国の成長鈍化を受けてブラジルも元気がありませんが、中国の安定成長路線が軌道に乗れば息を吹き返してくるでしょう。
ロシアは原油および天然ガスなど、世界最大のエネルギー産出国です。このため、株式や通貨ルーブルなどは原油など商品市況との連動性が強く、商品相場が上昇に向かうタイミングではロシア投資も魅力を増すことになります。資源頼みの経済構造には危うさもつきまといますが、最近は日本などアジアから天然ガスなどの引き合いが強まっているのも事実。現在、ロシアの輸出仕向け先では欧州が最も重要ですが、今後は資源供給先の幅を拡げることで投資妙味が高まるとも想定できます。