最近よく耳にする"イクメン"という言葉がある。これは子育てを楽しみ、積極的に育児に参加する男性のことだ。しかし厚労省の発表によると、2012年の男性の育児休業取得率は1.89%。まだ、ほとんど根づいていないと言っても良いだろう。そんな中、日本生命保険が「男性の育休取得率を100%にする」と発表した。こんな大きな会社が100%なんて、本当に実現可能なの? 話を聞いてみたいとお願いしたところ、快く応じていただいた。

日本生命保険相互会社 輝き推進室 小林あさひさん

今回お話を伺ったのは、日本生命保険相互会社 輝き推進室 小林あさひさん。"輝き推進室"は同社の女性の活躍推進を活動の柱として、2008年度に人事部内に設置された部署。5年の間に、男性も含めたワーク・ライフ・バランス推進、管理職の意識変革へと、活動を広げてきたそうだ。

--2012年の男性育休取得率は何%だったんですか?

小林さん「厚労省の発表と同じくらい、1%程度です。100%を目指して正式に推進を始めたのが今年度からで…」

--現在の取得率はどれくらいですか?

小林さん「7月末時点で36%です」

約4カ月で、1%から36%に! 驚異的な伸び率だ。

対策推進の目的とは?

--そもそも、どうしてこのような対策を行っているのでしょうか?

小林さん「2点あります。1点目は、女性の活躍を推進する上で、男性にも家事や育児に対する理解を深めてほしいということ。育児休業中にそれらの業務を担うことで、仕事と両立することの大変さをわかってもらえれば、という意図です。2点目は、自分たちの働き方を変えるきっかけになってほしいということ。育児休業取得をきっかけに、チームで仕事をしよう、効率よく仕事を進めようという意識になってもらうことを目的としています」

--単純に、休みが取れるということもうれしいですよね。

小林さん「確かに、子供が生まれるという本人にとってとても大切な時期に、会社からの後押しで育児参加ができたことで、その後の仕事のやる気アップにもつながっているようです。今までも制度はあったのですが、"本当に男性で使う人いるの?"と思っている人が大半だったんです。実際に取得者が出てくることで"いい会社だ"と思ってくれた人が増えたみたいです(笑)」

誰かが休んでも業務がきちんと成立する体制を整える

「イクメンの星」「ワークライフバランス王子」など、キャッチーなネーミングでの対策が多い

同社の育児休業制度では、男女問わず、最長「子どもが1歳半を過ぎた3月末」までの期間取ることができるというが、男性職員に対しては、まずは実行可能な連続1週間程度を取得するよう呼びかけている。

女性の育児休業と比べたら期間は短いが、1週間のまとまった休みを、通常の夏期休暇などとは別にとるということ自体、難しい会社がほとんどだろう。休むのは気が引ける、周りに申し訳ない…と思ってしまう人も多いのではないだろうか。その中で、日本生命は管理職クラスの方も育児休業を取得している。

小林さん「2012年の秋から、草の根運動を始めたところ、何名かの職員が取得してくれました。また、その事例を社内イントラで"イクメンの星"として掲載し、ロールモデルになってもらうことで"本当に育児休業をとってもいいんだ"という空気が広がっていったと思います。2013年3月になって積極的に推進し始め、各部署の所属長へ本格的に働きかけていきました」

--推進する上で、困難な点はありましたか?

小林さん「やはりお客さま対応をしている部署ですと、業務をストップさせることはできないため、休みが取りにくいのは事実です。そんな中でも、業務分担表を作り、メイン・サブ担当を決めてどちらかが休んでも支障がないようふだんから共有するなど、働き方自体を変えて臨んでくれている部署や、所属全体で育休を取る職員の業務をバックアップする体制を組む部署もでてきています」

--"普段の働き方を変える"という目標が達成されようとしている例ですね。

小林さん「育児休業前に同じ職場の子育て中の女性から育児休業中にすべきことをアドバイスしてもらう場を設け、休業中それらすべてを苦労しながらも実践したことで、彼女たちからの好感度がアップした男性職員もいるんですよ(笑)」

これこそ、デキる人たちの仕事!

取得対象者に配布される資料など

育児休業取得者に対しての説明資料も充実している。制度や事務手続きについての説明だけでなく、「育児休業をとることのメリット」として、マルチタスク能力が身に付く・コミュニケーション能力が上がる・家族とのきずなが深まる…などと提示。

また、月齢に応じて必要な育児は何なのかといった知識が、わかりやすくまとめられているのだ。ライフステージごとの必要なサポート、制度を利用するメリット、周辺の参考知識、これは保険提案のときに見たことがあるような…。

小林さん「保険を扱う会社ですから、ライフステージごとに物事を整理するような資料は得意分野かもしれません(笑)。当社は職員規模も大きいですし、男性職員の奥さんにもいろいろな会社の方がいます。私たちが男性の育児休業取得を推進することで、世の中にもじわじわと動きが広がっていったらうれしいですね」

"輝き推進室"という専門部署の設置、草の根の動き、取得推進のための資料や周辺の環境整備、各職場での知恵を絞った動きから、男性の育児休業取得率100%も達成不可能な目標ではないだろうと感じた。この成果が他の会社に伝わっていけば、世の中の働き方も変わっていくかもしれない。