宮澤光氏

富士山の登録でこれまで以上に関心が高まっている「世界遺産」。その遺産価値を学び、自然と人間の共生を学ぶという世界遺産検定も大人気で、これまでに55,000人もが受検しているとか。その人気の秘密を「NPO法人世界遺産アカデミー」研究員の宮澤光さんに聞きました。

世界遺産への理解は、ビジネスマンとして人間としての奥行きを深める

――世界遺産検定ってどんなものなんでしょう?

「2006年に始まった世界遺産検定は、ユネスコの平和理念や世界遺産への理解を深めることを目的としています。

世界遺産というと、有名な観光地や名所に対する世界的なお墨付きと思われがちですが、そうではありません。自然環境や文化遺産を世界遺産として一緒に守ってゆくことで、世界中の人々が互いの文化や歴史、風土を大切にするようになる。そうすることが戦争のない平和な世界につながっている。そんな希望が世界遺産には託されているのです。

ですから世界遺産検定の資格は、ただ単に『世界遺産のことを知っている』というものではなく、世界中の文化や自然に関心を持ち、世界平和についても考えている、そんな証にもなるのです」

――検定は仕事とかでどんなふうに活用できますか?

「旅行・観光系の会社の方なら、お客さんに商品を紹介する際や、企画を立てる際に世界遺産の知識を活かせますよね。世界遺産にはそれぞれ世界遺産として認められている価値があるので、旅行客が当地を訪れた時に"何を""どのように"見るとその価値を最大に味わえるかを伝えることができます」

――旅行業界では必須の資格なんでしょうか?

多くの人が海外を訪れた経験をもっている現在、旅行業界に求められているのは、深く確かな知識に基づいた旅行プランや現地案内だと思います。価値観が多様化した旅行客に、"何を見て""何をする"のか、それが自分たち人間や自然環境に"どのような意味があるのか"を示す必要があります。

そうした時に、世界の多くの観光地や名所が含まれ、ユネスコの理念に裏づけられた世界遺産の知識はとても有用です。世界遺産検定の1級は、旅行業界の専門資格である『世界遺産スペシャリスト』の認定要件のひとつとなっているほどです」

――旅行・観光系でない一般の人にとっては?

「2013年3月までに55,000人以上が受検しています。最近では就職活動中の学生や一般のビジネスマンの受検も増えています。

世界遺産は文化や歴史、自然環境だけでなく、音楽や絵画、文学、建築、生物、環境保護、観光、地理、世界政治、時事問題など、様々な事柄と深く関係しています。ですから、世界遺産を学ぶことは自分の内面に深みを与えることにつながると思います。

例えば、社会人になると、自分とは全く趣味も関心も異なる人と接することが多くなりますね。学生時代は話題の合う人と話していればよいですが、社会人になるとこれまで出会ったこともないような人と一緒に仕事をしなければならないことが少なくありません。そうした時に世界遺産の知識が役立ちます。

世界遺産の知識は多岐にわたっているので、直接世界遺産の話をしなくても、様々な話題が世界遺産の知識と結びついていて会話の幅を広げます。歴史好きの上司や旅行好きの先輩、国際情勢に敏感な取引先などとの会話についていけず目が宙を泳いでいる同僚をよそに、会話を盛り上げて信頼を得ることだってできます」

――就職活動にも役立つ?

「就職活動中の学生は、世界遺産検定の認定級をエントリーシートに書くことができます。また面接などの際には、世界遺産を通して国際情勢や時事問題、環境問題などに関心があるだけではなく、グローバルな視点をもっていることをアピールすることができます。

旅行・観光業界への就職を目指す学生だけでなく、商社や海外拠点をもつメーカー、マスコミ、文化・教育機関、国際機関などへの就職を目指す学生にも大いに役立つはずです」

――旅行も一層楽しくなりそうですね?

「世界遺産には登録基準があり、それを知っていると、旅行に行った際にどの遺産のどの点を見てくるとよいのか知ることができます。それぞれの世界遺産には、歴史的背景や様々な面白いエピソードもありますから、それを披露することで旅行の楽しみはぐんと増えると思いますよ。

また、つい最近世界遺産登録された富士山ですが、その山頂は誰の所有地なのか、ご存知ですか? 正解は、静岡県富士宮市にある富士山本宮浅間大社の飛び地である奥宮境内地です。

明治維新の際に国有地になりましたが、1974年に最高裁で富士山本宮浅間大社のものであると判決が出たんです。しかし、その後も山頂が静岡県のものか山梨県のものか決まっていないために登記ができず返還されていませんでしたが、2004年に県境問題よりも優先することが決まり、ようやく富士山本宮浅間大社の手元に戻りました。

と、こんな知識を披露しながらの富士登山も楽しいのではないでしょうか」

――最後に検定を取得する条件を教えてください。

「取得するために世界遺産を訪問しなければならない、といったような、特別な取得方法はありません。あなたもぜひ挑戦してみてください!」

profile
宮澤光(みやざわひかる)
NPO法人世界遺産アカデミー研究員。仏グルノーブル大学留学、國學院短期大学フランス語兼任講師を経て、2008年より現職。湘北短期大学非常勤講師。著書に「常識 世界史ドリル」、「はじめて学ぶ世界遺産100」、「世界遺産大辞典」、監修に「世界遺産ビジュアルハンドブック」(いずれもマイナビ刊)ほかがある。