"データを見てすぐに行動"が定着
ソフトバンク・テクノロジーでは、QlikViewで扱う売上データに「受注確度」という数字を取り入れている。これは、顧客に見積書を出した段階であれば「40」、その後のやり取りで営業スタッフが「好感触」と判断した場合に「60」、顧客から口頭で受注の意を示されたら「80」……といったように、受注の確実性に比例した数字である。
例えば、受注確度60以上の案件のみに絞って分析した場合、予算に対してどれだけ足りないのか、もしくは達成しているのかについて、より現実的な状況を把握することができるのである。
「基本的に受注確度60以上を分析する際の基準としている。受注確度60というのは、営業スタッフが『行けそうだ』と判断した案件。確度の入力は、営業スタッフの判断にゆだねる一方で、数字の報告だけは確実に行うことを徹底している」(阿多氏)
同氏にとって、QlikViewでデータを分析しながら現状を把握し、必要であればすぐに行動を起こすのが、もはや日常的な活動となっている。QlikViewと同時にビデオ会議/インスタントメッセージングのシステムであるMicrosoftの「Lync」を導入しており、数字を見て気づいたことがあればその場で担当者や上長を呼び出して質問をし、指示を与えているのだ。
「何か思い立ったらその場ですぐに実行するスピード感が大切」と阿多氏。
毎週月曜日の朝に開かれる経営会議でも、QlikViewの画面を見ながら役員同士で議論を繰り広げている。データは一時間に一回更新されるので、まだ数字が入力されていない案件があったとしても、すぐに入力して会議中に見ることができるのだ。
「QlikViewで示される数字はシビアなので、言い訳が通用しない。だから会議の空気はよい意味での緊張感に包まれている。また、会社業績の透明性も非常に高くなった。むしろガバナンスの観点から、これ以上高くなり過ぎないよう気をつけているぐらいだ」(阿多氏)
ホワイトカラーの生産性向上にBIは必須
多忙なスケジュールに追われる阿多氏だが、少しでも時間が空けば、データをどういう風に切り取って分析を行えば何が見えてくるのかについて頭を巡らせるようになったという。いいアイデアが浮かべば、新しいレポートを作成したり、メールで部下に知らせたりと、同氏のデータ分析は日々進化を遂げているのである。QlikViewは、事前に分析の軸や道筋をあらかじめ定義しておかなくて良いのが最大の強みであり、阿多氏がデータに対する疑問がわけば、現場の担当者はすぐにQlikView上で回答を示すことができる。
そんな同氏は、自身にとっての「データ」の意義を次のように説明する。「車に例えればスピードメーターであったり、エンジンの回転数計であったり、ガソリンの残量計であったりといったものだと言える。つまり、正しく経営を進める中で、欠かせない指標なのだ」
また阿多氏は、「社員の生産性を高めるためにもデータ分析は欠かせない」と強調する。
「ホワイトカラーの生産性をいかに上げるかという課題に応えるためには、ワークスタイルを変革しなければいけない。その中でも特に重要なのが、営業のプロセスをどう改善すればビジネスを拡大できるかということだ。そのためには、CRMや、すぐに数字が見られるBIのような仕組みが必要となる。いまはそこに投資をしている段階だ」
ソフトバンク・テクノロジーでは、QlikViewとほぼ同時期にCRMシステムも導入している。さらに、VMware Horizon Viewを用いてデスクトップ環境をシンクライアント化するなど、積極的なIT投資を展開しているのである。
QlikViewの導入効果か、昨年度の同社の限界利益は確かに伸びた。ただし、100人以上社員を増やしたことで固定費が上がったため、経常利益については過去最高益ながら伸び率は阿多氏にとって十分な数字ではなかったようだ。
「短期のスパンではなく、まずは3年で何を達成すべきかを考えている。とはいえ大きな減益はあってはならない。その辺りのバランスが大事だと肝に銘じている。会社が業績を伸ばしていくためには体力、つまり仲間となる社員数が必要だ。しかし、人を増やしたからといってすぐに数字に反映されるわけではないので、どうしても最初のうちは利益率が控えめとなる。そこはこれから人材が育ち伸びていくことで大きく変わっていくと期待している」
阿多氏が描く成長戦略の中で、BIによるデータ活用は欠くことのできないものとなっているようだ。