「ビッグデータ」というキーワードとともに、大きな注目を浴びている新たな職種「データサイエンティスト」。本誌はこれまで2回にわたり、データサイエンティストが求められる時代背景や、実際に現場で活躍するデータサイエンティストの業務内容を紹介してきた。
2本のレポートを通じてお伝えしてきたのは、データサイエンティストが単にデータと向き合うだけの職種ではないという点である。業務の中に深く入り込み、潜在ニーズを発掘し、それに合わせて必要なデータを収集/分析したうえで、担当者が分析結果に基づいて具体的な行動をとれるようになるまでの指南を行う。彼らに与えられるミッションは多くの場合「事業の発展」で、求められるスキルは「データ分析力 + 優れたビジネス感覚」である。
データサイエンティスト企画 レポート
「データサイエンティスト」をテーマにした取材レポートを以下にも掲載しております。併せてご覧ください。
当然ながら、そうした"逸材"の絶対数は少なく、新たに登用するのは難しい。そこで現実解として考えられるのは、ビジネスの現場を把握するキーマン(ひいては現場の全ての人)がツールの力を借りてデータ分析を行い、問題点の改善や業務改革を推進していくという方法だろう。
ソフトバンク・テクノロジー 代表取締役社長 CEOの阿多親市氏 |
今回は、それを実践しているソフトバンク・テクノロジー 代表取締役社長 CEOの阿多親市氏の話を紹介する。
4期連続の増収増益を記録中で、今年3月期に過去最高益を達成した同社。その裏には、BIツールを駆使して自らデータを分析し、問題点を突き詰め、改革を進める阿多氏の姿がある。
CEO就任後すぐに、最新の業績が見られる仕組みを構築
阿多氏は、12年4月1日にソフトバンク・テクノロジーのCEOに就任。トップに立った早々に同氏が抱いた疑問が、会計上の正確な数字を把握できるまでにタイムラグがあることだった。
「当社は、毎月末締めの会計の内容が確定するのが翌8営業日目と決まっている。そのためほとんど月半ば、ゴールデンウィークなどを挟んだ場合には月後半にならないと正確な数字が出てこない。そこから前月の売上を確認し、今月何をすべきか話し合おうとしたときには、その月はほぼ終わりといった状況となってしまう。これでは経営に大きな支障が生じると危惧した」と、阿多氏は当時を振り返る。
同社には従来から使用している販売管理システムがあるが、それ自体を変えるとなると少なくとも1年もの時間を要する。また、個々の営業スタッフは自分の成績等をエクセルで管理しており、その内容を各部長がヒアリングしてまとめたものが阿多氏に報告されるのだが、そこまでの段階で多くの時間と労力がかかっていた。
そこで阿多氏はすぐに"リアルタイムに数字がわかる仕組み"の構築へと乗り出し、6月にはQlikTechのBIツール「QlikView Business Discovery Platform」の導入を完了したのである。
同氏はまず、社員に売上見込み額などのデータ入力の徹底を訴えた。すると夏には、入力される数字の精度は90%以上にまで達した。そのため同年8月30日に全社員を対象に開催した社員大会の場で阿多氏は、最新の売上と限界利益の数字を示しながら説明を行うことができたのである。
「社員がリアルタイムで限界利益を確認できるようにすることで、その数字を上げれば会社が成長すると皆が実感できるようになり、意識改革につながるという期待も大きい」(阿多氏)
営業利益ではなく限界利益を見せるようにした理由は、東証一部上場企業である同社のガバナンス上の理由である。ただし、それぞれの営業スタッフは、自分が所属している部門の成績であればすべて見られるようにしている。さらにマネージャーは所属している部全体、部長になると部が属している本部、そして当然ながら役員は全社の数字を見ることができるのだ。
「昨年の夏までは、経理が発表する前に前月の売上がいくらかを即答できる社員はほとんどいなかったが、今では答えられるのが当たり前になった」と阿多氏は語る。