1,200年にわたって都が置かれた京都。そのみやびな貴族の世界が舞台となった「源氏物語」の世界は、書物や絵巻物、あるいはマンガなどで描かれてきた。だが京都市のとある場所では、更に進んで「源氏物語」の様々なシーンの、めくるめく華麗な都の生活を具現化しているという。
袿や狩衣などを着用して記念撮影も
その場所は「風俗博物館」。昭和49年(1974)に古代から近代に至る日本の風俗・衣装を実物展示する博物館としてオープンし、平成10年(1998)にリニューアルした。今では年2回、「源氏物語」の一幕を精巧な人形と衣装で具現化して展示を行っているという。
そして2012年には改めてリニューアルが行われ、平安初期を題材とする「竹取物語」の展示が加わった。その結果、約400年に渡って続いた平安時代の貴族の風俗や生活を、詳細に知ることができるようになっている。ちなみに再現された住まいは光源氏が造営した「六條院」で、そこに住む貴族たちの生活模様まできっちりと再現されている。
源氏物語の中で六條院は、光源氏が政治家としての権力を増幅していった34歳の秋に着工して、35歳の8月に落成した大邸宅である。その広大な屋敷は四町に区切られていて、各町のテーマを春夏秋冬とし、町ごとに異なる四季を楽しめる庭と建物となっているのだが、博物館の模型ではその4分の1に当たる「春の御殿」が具現化されている。
その他、平安時代を見て触れて体感できるようにと実物大の人形が置かれ、調度品や寝殿の一部を再現・展示した部屋も隣接して設けられている。そこでは服の上からだが、自由に袿(うちき)や狩衣(かりぎぬ)などを着ることもでき、また原寸サイズの人形と調度を背景に、衣装を着て撮影することもできるのだ。
源氏物語の参照資料としても活用
こうした展示を行っている「風俗博物館」は、源氏物語の世界に憧れているファンの聖域としても有名で、1日中模型に見入っているファンもいる。また、高校生が使う国語便覧の源氏物語の参照資料には、ここを撮影した写真が使われているものも多い。それだけ再現度が高いという証明でもある。
ただし、注意いただきたいのが建物の構造である。よくある特別な建物を利用したものとは違い、実はビルの5階を利用して作られているのだ。そのビルとは、「西本願寺」の東側にある「井筒法衣店」のビル。一般社員も利用するエレベーターを使い、5階まで上って来館となる。
歴代の風俗を知る貴重な書籍も
博物館内では、初代館長であり日本の衣装や風俗の研究家として知られる井筒雅風氏が執筆・監修した書籍など、日本の時代風俗研究の成果を豊富な資料を元にして編纂(へんさん)された貴重な書籍群などの販売も行っている。実際、これの購入を目当てに博物館を訪れる人もいるという。
京都では、嵐山や東山といったメジャーな観光スポットが数多くある地域が有名だが、実はJR京都駅付近にも「西本願寺」や「東本願寺」などを始めとする見所がいろいろと点在している。それらとともに、駅から徒歩10分ほどで行けるみやびな世界「風俗博物館」にも、是非足を運んでいただきたい。