2012年に行われた「第7回B-1グランプリ in 北九州」。ここで初出場ながらシルバーグランプリに輝いた「上対馬(かみつしま)とんちゃん」が、いま脚光を浴びている。普通、とんちゃんと言えば豚のホルモン(内臓)と相場が決まっているが、上対馬のはちょっと違うのだ。
在日韓国人が食べていたホルモン料理がルーツ
ホルモンを焼いたり、煮込んだりするのが、世間一般のとんちゃんだ。しかしこの「上対馬とんちゃん」は内蔵ではなく豚肉そのものを使っているところがミソである。対馬と言えば、日本で韓国に一番近い場所。昔から韓国との交流が盛んな土地だ。「上対馬とんちゃん」のルーツは戦後、対馬の北部(上対馬)に住んでいた在日韓国人が食べていたホルモン料理にあった。
それが対馬で他においしくできる方法はないかと考えられ、ホルモンから豚肉に置き換わり、「上対馬とんちゃん」の歴史は始まったという。この「味付け豚肉」のスタイルは、日本国内では対馬だけだそうだ。ちなみに豚肉には、豚本来のうま味が味わえる肩ロースが一番マッチするという。
味の決め手となるタレは、みそやしょう油、ごま油、ニンニク、唐辛子などから作られる。ベースはそのままに、対馬ではいくつもの精肉店や焼肉店が独自のうまさを求め、少しずつオリジナルの味を作り上げていった。
老舗の精肉店はタレを40年以上つぎ足し、うなぎのタレばりのコクを出している。これで豚の肩ロースを肉を漬け込むというから、うまくない訳がないではないか! かつては上対馬のみならず、対馬の全土にこの「とんちゃんや」があったそう。今は上対馬の名物と言われているが、その味は通販などによって、日本どこでも本場の味が満喫できるようになった。
タレ漬け豚肩ロースの歯ごたえ、甘みがたまらない!
では、「上対馬とんちゃん」の作り方を見ていこう。といっても普通の焼き肉と同じ要領で至って簡単。とんちゃんと好みの野菜を一緒に焼き上げるだけだ。店によっては網焼きだったり鉄板だったりとまちまちだが、じゅーじゅーと香ばしいにおいが立ち込め、空腹神経をチクチクと刺激する。
ちなみに野菜は好みで何を入れてもいい。野菜それぞれの甘みがタレに溶け出すため、自分好みの味を構成してみるといいだろう。甘辛い味付けに、豚の肩ロースならではのシッカリとした歯ごたえとうまみを感じさせる。
そして適度な脂身。ビックリするほどご飯が進む。こりゃあ何杯でもいけるわぁ~! ビールも何杯でも飲めそうで、気がつけばはちきれんばかりにおなかが膨らんでしまっていることも……。
ご飯にかけてもよし、チャンポン風にするもよし
さて、シメはどうするか。お好みだが、煮汁をご飯にかけて雑炊風に食べるのがイチオシだ。また長崎風にチャンポンを入れるというテもあるぞ。こういった食べ方こそB級グルメの醍醐味! B-1グランプリでは、ご飯の上にトッピングする「丼もの」スタイルでも提供された。
この丼スタイルは食べやすいと評判でローソンやミニストップといったコンビニでも、期間限定で弁当として発売されたほどだ(現在は終了)。さて今、対馬では若手を中心に、「対馬とんちゃん部隊」なるチームを結成し、この対馬発のご当地グルメのPRに当たっている。「B-1」初出場にしてシルバーグランプリ獲得という偉業も、彼らの頑張りなくして実現できなかった。
ここで少し、韓国の食文化を考えてみたい。日本人がイメージする韓国料理は何といっても焼き肉だが、韓国の焼き肉には付けダレがなく、肉を漬け込んで焼くのが一般的だ。しかも韓国の焼き肉では牛肉よりも手頃な値段の豚肉の方ポピュラーな存在でもある。そう考えると、「上対馬とんちゃん」は庶民の間で伝わった伝統的な料理というのもうなずける。
江戸時代は朝鮮通信使の受け入れ地となるなど、日韓の架け橋となった対馬。「上対馬とんちゃん」を通じて、今後も日韓がいい関係になれればと願う。