大企業に数えられるMicrosoftは、日本マイクロソフトを含む各国でカンファレンス(会議、協議会)を開催し、同社の最新テクノロジーや製品、サービスを紹介するイベントを開催してきた。中でも多くの注目を集めるのが、開発者を対象にした「Build」である。今年はWindows 8.1という次期Windows OSに関する発表が行われたため、その注目度も例年に増して高かっただろう。今週は「Build 2013」で明らかになったWindows 8.1や、Windows OSと連動するアプリケーション、サービスに関する情報を本レポートでお送りする。
Windows 8.1は市場ニーズに応えられるのか
米国のサンフランシスコで、現地時間の2013年6月26日から28日まで開催中の開発者向けカンファレンス「Build 2013」。Microsoft CEO(最高経営責任者)であるSteve Ballmer(スティーブ・バルマー)のキーノートから始まり、Windows 8.1プレビューやVisual Studio 2013プレビュー、Windows Azure WebサイトおよびWindows Azureモバイルサービスの正式リリースなど、興味深い発表が次々と行われている(図01)。
その内容は同社の動画コミュニティサイトであるChannel 9で視聴可能だ。Windows担当コーポレートバイスプレジデントのJulie Larson-Green(ジュリー・ラーソングリーン)氏や、Windowsプログラムマネージャー担当コーポレートバイスプレジデントのAntoine Leblond(アントワーン・レブロンド)氏が壇上に立ち、新機能に関する情報を目に、もしくは耳にすることができる(図02~03)。
Windows 8.1プレビューに関する情報は、本誌を含めた各IT系媒体で報じられているとおり。本レポートでも改めてBuild 2013で明らかになった情報を精査し、我々を取り巻くコンピューターのあり方を考えてみたい。
前述したBallmer氏はWindows 8.1時代のデバイス戦略として、タブレットとしてだけでなくノート型コンピューターとしても使える「2-in-1」や、主要なOSやアプリケーションなどがセットになった「AIO(All-In-One)」が新たな活躍の場である、と述べている。賢い読者ならお気付きのとおり、これは何ら目新しいものではなく、"何にでもWindows OS"という2000年代から同社がまい進してきた戦略と何ら変わりはない(図04)。
その一方でLarson-Green氏は、7~10インチの小型タブレットが、今後のタブレット市場で重要な位置を占めるという予測の元に、ポートレート(縦置き)モードやソフトウェアキーボードの改善などを、Windows 8.1で実現すると述べた。同氏が「ジェスチャーを追加した」と発言したように、キーを押した指をスライドして単語を選択するフリック風入力のサポートや、指をスライドさせることでスペースキーを押し、単語補完機能などが含まれている(図05)。
同機能は評価に値するかは、より多くの時間をかけないと述べることはできないものの、先発組の足りない部分を補うように、機能拡張を行うのは良くも悪くもMicrosoftらしいといえるだろう(図06)。
流れは前後するが、Windows 8.1のスタートボタンやデスクトップに関しては、Ballmer氏がスピーチしている。タスクバーにはスタートボタンが復活し、デスクトップ-スタート画面をシームレスに移行できると述べているが、そもそも多くのユーザーが求めた"スタートボタンの復活"は、ボタンそのものではなく、"スタートメニューによる完結した操作性"だ。Microsoftの開発陣もユーザーの意見は重々承知しているだろう(図07)。
だが、スタートメニューの復活は、今後主流になるであろうタブレット型コンピューターのUI(ユーザーインターフェース)と相反するものであり、同社の元Windows&Windows Live担当プレジデントだったSteven Sinofsky(スティーブン・シノフスキー:現在は退社)氏が推し進めたモダンUIに取り込むのは難しい。デスクトップおよびスタート画面へスタートボタンを用意するのが同社の妥協点なのかもしれない。
ちなみにWindows 8.1プレビューで確認すると、「タスクバーとナビゲーションのプロパティ」ダイアログの<ナビゲーション>タブに、「スタート画面」セクションが新設されていた。例えば<サインイン時にスタート画面ではなくデスクトップに移動する>を有効にすれば、スタート画面をスキップしてサインイン直後からデスクトップが利用可能になる(図08)。
興味深いのはWindows 8.1が3Dプリンターを公式サポートする点だ。各メディアで報じられているように、CADデータなどを基に立体物を造形するデバイスは、国内でも新しいビジネスチャンスとして注目を集めている。現在は3Dデータを3Dプリンター専用のソフトウェアで取り込むことで、造形を可能にしていた。だがWindows 8.1では、Autodeskや3D Systemsなど海外では有名な3Dレンダリングソフトのデータを、そのまま読み込む3Dプリンターのデバイスドライバーを事前に用意するという(図09~10)。
Leblond氏が「3Dプリンターが大量生産に取って代わることはないものの、今後主流のデバイスになることは確実だ」と述べたように、3Dプリンターの普及が今後のビジネスモデルに大きく影響を及ぼすのは火を見るより明らかだ。いち早くOSレベルで3Dプリンターをサポートすることで、コンシューマー向け3Dプリンターの登場スピードも加速するのではないだろうか。3Dプリンターのサポート状況に関して興味を持たれた方は、同社のプリシンパルソフトウェアデザインエンジニアであるKris Iverson(クリス・アイバーソン)氏のセッション動画をご覧いただきたい(図11)。