「どうですか? この規格外のボリュームと豪勢さは!

その名も「岩手びっくりたこ焼き」。「ええっ、これがたこ焼き?!」とびっくりすること請け合い、名前に恥じない仰天たこ焼きである。1個につき、たこ足1本、えび1尾、かに爪1本がまるまる入った(というかはみ出た)豪華極まりないその姿は、たこ焼きの常識を越え、感動的ですらある。

今や盛岡では知らない人がいないほど有名に

全国にあまたのたこ焼きあれど、こんなたこ焼きは見たことがない。盛岡市を中心に町のあちこちやイベント会場に、キッチンカー(移動調理販売車)で出没する「岩手びっくりたこ焼き」。ガスボンベを積み込んで現地で調理して販売するスタイルだが、鉄板上で焼かれるたこ焼きを見て、まず絶対に驚かない人はいないだろう。

たこ足が、えびが、かに爪が……丸いたこ焼き本体に収まりきらずに、どーんと空に向かって突き出ている。

上から見るとこんな感じ。左から3列目のイイダコは価格高騰で現在休止中

「一体全体、これはいくらで買えるのですか?」と「岩手びっくりたこ焼き」主人の村井義行さんに尋ねると、「たこ足1個、えび1尾、かに爪1個、それからノーマルたこ焼き3個で1セット。それで600円です。正直、採算ぎりぎりです(苦笑)」。いやぁ、それはそうだろう。しかし、このインパクト、今や盛岡では知らない人がいないほどになったというのもうなずける。

見よ、この長蛇の列。「びっくりたこ焼き」はどこへ行っても大人気だ

村井さんは以前、東京で人気ミュージシャンのツアースタッフやテレビ局の制作スタッフをしていたが、10数年前に故郷の盛岡へUターン、たこ焼き店を開店した。しかし、粉文化が薄い岩手では売り上げが伸びず、当たり前のたこ焼きではダメだと一念発起。試行錯誤の末に、現在のような巨大な具入りの「びっくりたこ焼き」に至ったと言う。

「仕込みは大変。えびとかに爪は冷凍物をボイルして使いますが、たこは地元の三陸産にこだわっていたものの、震災と津波の影響をもろに受けてしまいました。今は何とか宮古の水産業者さんにお願いして、新鮮なたこを確保できるようになりました。たこは熱を加えると水が出るゼラチン質を取り除く作業も厄介でして、仕込みに半日はかかります」。

「生地も卵の他、7種類ほどの材料をブレンドした秘伝のものです。ソースも一般的なたこ焼きソースの他に、夏場はさっぱりとした塩ねぎマヨーネーズも用意しています」。

規格外の「岩手びっくりたこ焼き」は、村井さんによって2002年に意匠登録されている。

毎日の移動販売が楽しくて仕方ないという村井さん

タイの三輪カー「トゥクトゥク」を駆ってどこへでも

労苦をいとわず、こだわり抜いた「岩手びっくりたこ焼き」だが、村井さんはこの移動販売の仕事が楽しくて仕方ないらしい。うれしそうに、こうも話してくれた。

「実は昨年12月、念願だったトゥクトゥクを購入してキッチンカーに改造し、今はこの車で移動販売に出かけているんです。子供たちは歓声を上げるし、信号待ちをしていると他の車の人たちが携帯とかで写真をパチパチ撮影し始めるんですよ」。

トゥクトゥク(TukTuk)とはサムローとも呼ばれ、タイなどの東南アジア諸国で大活躍している軽便な三輪カー。そんなトゥクトゥクを東京のタイ料理店から譲り受け、自分の手でキッチンカーに改造して使用しているのである。

村井さん自慢のトゥクトゥク。タクシーと間違えて手を挙げる人も

トゥクトゥクはキッチンカー選手権などでもダントツの人気だそう

「トゥクトゥクは暑い国の乗り物、寒い東北では絶対無理だと言われました。何せ吹き抜けでヒーターもない。さすがに吹雪の時などは死ぬほど寒かったですが、それでも“かわいい”とか“かっこいい”とお客さんに喜んでもらえるので苦になりません」

お客さんの喜ぶ顔を楽しみに、どこへでも出かけていく。トゥクトゥク導入前のキッチンカーの時代のことだが、岐阜のイベントに呼ばれて、岩手から岐阜まで17時間をかけて駆けつけたこともあるそうだ。最近では評判を聞きつけた全国のイベント主催者などから声がかかることも多く、岩手にかぎらず全国に出向することも多いという。

「もう、明日の予定とか考えてるとワクワクしてしまうんですよ」。