インテルのAtom Z2580(Clover Trail+ :開発コードネーム)は、昨年発表されたWindowsタブレット用のClover Trail(Atom Z2760)と同系列で、携帯電話向けのMedfield(Atom Z2400系)の後継にあたるプロセッサだ。
そもそもAtomシリーズは、「低消費電力」のインテルプロセッサとして開発がおこなわれ、当初は、LPIA(Low Power Intel Archtecture)と呼ばれていた。Atomシリーズには、PC向けの系列と携帯電話向けの系列があり、特に低消費電力のシリーズには、Zからなる型番が付けられていた。一時、携帯電話への採用を指向しすぎて、PC向けがおろそかになった時期もあった。
しかし、ARM系プロセッサがiOSやAndroidで急増、タブレットなどにも採用されるようになり、マイクロソフトもARM系プロセッサで動作するWindows RTを開発、Windows 8からは自社ハードウェアを投入するなど、WindowsとCPUの関係が変わり始めた。
これに対して、インテルもZシリーズを携帯電話向けに限定することをやめ、Windowsのタブレットにも展開を開始する。ZシリーズをPCメーカーにも提供しタブレットの開発を促した。これにより、Windows 8のタイミングでは、CloverTrail(Z2760)を採用したタブレットが登場することになる。
こうしたなか、Z系列で携帯電話向けのデュアルコアプロセッサとして登場したのがClover Trail+こと、Z2500系のプロセッサだ。Z2580は、その最上位プロセッサであり、2GHzデュアルコアに加え、各コアでSMT(Simultaneous Multi-Threading)により2スレッドを実行でき合計4スレッドの同時実行を可能にしている。さらに内蔵のグラフィックスコアもデュアル化しており、Z2400系に比べて性能を向上させている。
そのZ2580を採用するアンドロイドスマートフォンがレノボの「K900」だ。
■「K900」スペック表 | |
CPU | Intel Atom Z2580 |
---|---|
クロック周波数 | 2.0GHz |
コア/スレッド数 | 2/4 |
メインメモリ | 2GB |
ディスプレイ(解像度/サイズ) | 1080x1920ドット/5.5インチ |
内部ストレージ | 16/32GB |
カメラ(バック/フロント) | 13/2メガピクセル |
Android Ver. | 4.2(JB) |
2Gモバイルネットワーク | GSM 850/900/1800/1900MHz |
3Gモバイルネットワーク | HSDPA 850/900/1900/2100MHz |
Bluetooth | 3.0 |
無線LAN | IEEE 802.11a/b/g/n |
バッテリ容量 | 2500mAh |
サイズ | 157×78×6.9mm |
重量 | 162g |
外観
K900は5.5インチのディスプレイを搭載しており、かなり大型のスマートフォンである。解像度は1080×1920のいわゆるHD解像度だ。正面、液晶下部には、「メニュー」、「ホーム」、「バック」のタッチキーを装備しているため、Android 4.x系でも画面にホームボタンなどが表示されない。また、このタッチキーにはバックライトがあり、暗いところでも利用可能だ。ただ、4.x系アンドロイドの標準的なキー(バック、ホーム、最近使ったアプリ)と違っており、ちょっと違和感を感じる部分がある。どちらかというとAndroid 2.3までを使っていたユーザー向けの配置といえる。
金属筐体を採用し、厚さは、6.9ミリと薄く、重さは162グラムである。本体側面には、電源ボタン(右)、ボリューム(左)があり、また、右側にSIMカードスロット(マイクロSIM)がある。USBコネクタとヘッドホン端子は本体底部にあり、本体の上部にはなにも配置されていない。海外メーカーの製品の常で、ストラップホールはない。
背面にはカメラとライト(上部)、スピーカー(下部)があり、中央部分を金属の板が覆っていて、ここにLenovoロゴとIntel Insideロゴがある。背面は、放熱機構を兼ねているらしく、充電中やCPU負荷の高いときには、背面に熱を感じる。
大きさは、157ミリ×78ミリと任天堂の3DS LL(156ミリ×93ミリ)と同じぐらいで、そのケースにぴったりと収まるサイズだ。
全体の感じは、金属の「機械」をイメージさせるデザインだが、側面裏側が曲線処理されており、手に持っても角張った感触はない。全体がメタルカラー(すこし黒みがかった銀色)で、背面パネル部分は、ヘアーライン仕上げで、わりと高級感が感じられる。
本体下部に、ヘッドホン端子(ヘッドセット兼用)とマイクロUSBコネクタ(OTG対応のmicro-Aレセプタクル)がある。ヘッドホン端子横の小穴はマイク用と思われる |
本体上部には、なにも配置されていない。また、右側面には電源ボタンがある |
内部ハードウェア
K900は、メインメモリを2ギガバイト搭載しており、内部ストレージは、16ギガバイト(32ギガバイト版もあるらしい)だ。ただし、SDカードなどによる拡張はできない。16ギガバイトのフラッシュストレージ部分は、4.7ギガバイトの「内部ストレージ」と9.8ギガバイトの「USBストレージ」(SDカード相当の領域)に別れている。Nexus 7などは、すべてが「内部ストレージ」という形で1つのパーティション(論理的な記憶領域)になっているのだが、K900は、内部ストレージと外部ストレージが別パーティションとして分離されているようだ。
扱いの違う起動システムとデータストレージを分離したのだと思われるが、メリット、デメリットがある。システム側とデータ側が分離しているため、メディアファイルなどが増えてもアプリをインストールする領域を圧迫することはないが、逆にデータ側が空いていても、システム側(内部ストレージ)がアプリなどで一杯になってしまう可能性がある。アプリ設定で、「SDカードへ移動」させることもできるが、対応しているアプリはそれほど多くない。
その他、GPSや加速度センサーなどアンドロイドが持つ一般的なセンサーを備える。
K900は、Android 4.2(Jelley Beans)を搭載しているが、内部は大きくカスタマイズされている。これについては別途レポートしたい。言語設定は、英語と中国語のみしか選択できないが、言語設定を英語にしたまま、日本語の表示は可能、また、Google日本語入力をインストールすることで日本語の入力もできる。電源オン時にインテルインサイドロゴが表示されるのだが、このときにインテルのジングルサウンドがなるのには、ちょっと笑ってしまった(設定でオフにできる)。
K900のホーム画面。ラウンチャー(ホーム画面)もカスタマイズされているが、設定や標準搭載アプリも独自のものに置き換えられている |
Playストアはないものの、Lenovoストアから多くの著名なアンドロイドアプリが入手できる。このため、Googleサービス以外の部分では、標準的なアンドロイドと同じように利用できる |
CloverTrail+の実力
Atomといえば、気になるのがバッテリ寿命だが、K900は、匡体が大きく2500mAhのバッテリを搭載する。ただし、その分液晶も大きくバックライトなどの消費電力も大きい。付属のLenovo Powerアプリを見ると、バッテリ消費の大半は、モバイルネットワークとディスプレイで、だいたいこの2つで消費電力の90%以上を使っている感じになる。これに対して、CPUの消費量は2%と表示されている。これを信じる限り、Atomだからといって、ARM系のプロセッサと比較して特に消費電力が多いということはなさそうだ。
ざっと使った感じ、Atomだから不利な点はないが、Atomだからこそのメリットがあるわけでもない。ベンチマークアプリなどの結果を見ると、Cortex-A15を採用したスマートフォンと同程度の性能であり、トップクラスには入るが、ARM系のプロセッサに比べて、抜きん出て高性能というわけでもない。グラフィックス部分もPowerVRであり、他のSoCでもイマジネーションテクノロジーからIPを購入すれば利用可能という点で、差別化されているわけではないからだ。
もっとも、一般消費者にとってみれば、ARMもAtomもMIPSもどれも同じアンドロイドでしかない。今後の普及に必要なのは、利用者よりも、スマートフォンやタブレットのメーカーが使い慣れたARMプロセッサに比べて、どれぐらいのメリットを感じるかということだろう。
価格も中国国内では約3,000元(1人民元16円換算で4万8,000円)である。米国での販売価格を見ると500~800ドル(ただし米国で正式販売しているわけではない)と、Galaxy S4に対して大きな価格差があるわけではなく、ハイエンドスマートフォンの価格帯に収まっている。
そういうわけで、CloverTrail+でAtomとARMプロセッサは同じ土俵に完全に乗ったと考えていいだろう。ハイエンドスマートフォンの領域で、下から上がってきたARM系プロセッサとPCから降りてきたAtomが今激突しているという感じだ。
AnTuTuベンチマークの結果チャート。Galaxy S4と同程度の性能があることがわかる |
Lenovo Powerアプリによる消費電力の内訳表示。大半がディスプレイとラジオ(モバイルネットワーク)によるもの |