2006年、法律を扱う専門職である裁判官、検察官、弁護士の質を高め、法曹人口を増加させるために司法試験制度が変更になり、2012年には新たな試験制度へ完全移行した。現在では、法科大学院課程の修了または司法試験予備試験合格が義務づけられている。

また、受験資格だけではなく、受験回数にも制限がある。法科大学院修了の日または司法試験予備試験の合格発表の日の後の、最初の4月1日から5年以内に3回しか受験することができない。これには、法科大学院や予備試験受験による教育効果が薄れないうちに法曹界へ進んでもらうという目的がある。

しかしながら、難関である司法試験を突破しても簡単に就職できるわけではないという。また、閉校する法科大学院も増えており、そのあり方が見直されつつあるようだ。そこで今回は、変化の時期を迎えた法曹界の現状について調べてみた。

法科大学院を修了して弁護士になった萩生田彩氏

司法試験の合格率は、2006年には48.25%だったが、2011年には23.53%まで落ち込んだ。これは、合格率の低い法科大学院既卒者の増加が原因といわれている。最難関といわれる司法試験に合格し、弁護士として活躍するにはどのような過程が必要なのだろうか。明治大学法科大学院出身の萩生田彩弁護士(65期)にお話をうかがった。

――萩生田さんは、法科大学院を修了して司法試験の受験資格を得たとのことですが、従来の司法試験の受験や、司法試験予備試験の受験ではなく法科大学院への進学を選んだ理由を教えてください。

萩生田弁護士「従来の司法試験はハードルが高く、合格率も高くありませんでした。また、私たちが法科大学院に進学したのは、まだ予備試験が創設されていないとき。そのため、多くの方は数年間の期間と学費を費やしてでも法科大学院への進学を選択するのですが、私もその一人でした」

――法科大学院で学んでよかったと思うことについて教えてください。

萩生田弁護士「司法試験委員を務める先生や、弁護士等の実務家の先生方に教えて頂けたこと、また、こうした先生方にいつでも質問できる環境にあったことが、司法試験合格に大変役立ちました。

また、身近に司法試験の受験者が多いので、仲間同士で切磋琢磨することもできました。そのなかで、自分はどのように合格を目指せばいいかを模索することができ、この点においては、法科大学院で学んでよかったと思います」

――試験に合格後、弁護士事務所に就職するためには、どのような活動をするのでしょうか?

萩生田弁護士「出身法科大学院からの支援や、一般企業が開催するようなセミナーは特に印象にありませんが、弁護士会による合同説明会があるのでそれに参加する人が多いように思います。また、各事務所のホームページや、弁護士の求人などが掲載されている『ひまわり求人求職ナビ』というサイトで求人情報をチェックしたりします」

――弁護士事務所の就職試験とは、どのようなものなのでしょうか?

萩生田弁護士「これは事務所によってまちまちではないでしょうか。一般企業のようなSPI試験に類似した試験を行うところもあると聞いていますし、司法試験の成績・法科大学院の成績やTOEICのスコアなどの資料で判断するところ、筆記試験や口述試験を実施するところもあります」

――弁護士でも就職難といわれていますが、実際にはどうでしょうか?

萩生田弁護士「実際、本当に厳しいと思います。就職が決まらなくて弁護士会への一斉登録に間に合わない修習生もいます。もっとも、私の同期にも12月の登録に間に合わない者もいましたが、2月には就職先が決まっていました。今後はもっと厳しい状況になっていくと思います」

弁護士といえども、就職難を実感することは少なからずあるようだ。また、司法試験の受験資格を得ると同時に、実務家による実務に即した指導を受けられる法科大学院への進学も一般的と言える。

法科大学院は司法修習の一部に位置付けられている

現在の司法試験の受験制度では、司法試験予備試験というものが新設された。司法試験予備試験では、「法律科目+一般教養」を問われる短答式試験、さらに法律実務基礎科目が加わる論文試験、法律実務基礎科目に関する口述試験が課せられる。これをクリアしてはじめて司法試験の受験資格を得ることができる。

しかし、司法試験法では、司法試験の実施目的を「法科大学院課程における教育及び司法修習生の修習との有機的連携の下に行うもの」と定めている。司法試験制度が変更になったときに、司法修習制度も変更になり、法科大学院で学んだことを前提に修習を実施している。いわば、法科大学院は司法修習の一部に位置付けられているのだ。

もちろん、法科大学院は司法試験予備試験の一部の役割も果たしている。ゆえに、法科大学院とは、司法試験の受験資格を得るためだけに存在するのではなく、司法修了後すぐに実務にとりかかれる人材を育成する機関と言える。そのため、法科大学院修了生と、司法試験予備試験合格者では、司法修習に入る前に大きな差が生じることもあるようだ。

法曹の基礎を学ぶ法科大学院

法科大学院は、法曹の質の低下防止、そして法曹人口の拡大を目的に2004年に開設された。法曹に必要な学識や能力を培うために、主に以下の4つの項目について学習する。

・法律基本科目群:憲法、民法、刑法など ・法律実務基礎科目群:責任感や倫理観の教育、法文書作成や模擬裁判などの実務体験など ・基礎法学・隣接科目群:法哲学、外国法など ・展開・先端科目群:労働法、経済法、知的財産法など

修学期間は2~3年(法学既修者課程は2年、法学未修者課程は3年)。修了後には法務博士(専門職)が授与される。

法科大学院は決して簡単に入学できるわけではない。入学時には、共通試験である法科大学院適性試験や学校ごとの個別試験が課せられる。

法科大学院のカリキュラムは、基本的に司法試験の受験および合格に十分有益となる内容となっている。また、実務科目・臨床科目(模擬裁判、リーガルクリニック、エクスターンシップ等)が質・量ともに充実しているので、実際の法曹の仕事のイメージをつかみやすい点にメリットがあると思われる。

理論と実務を両方学べる法科大学院

このように、法科大学院は新たな司法試験制度において重要な役割を果たしているが、具体的にはどのようなことを学ぶのだろうか。成蹊大学法科大学院の尾関幸美教授にお話をうかがった。

――学生が司法試験に合格するために、どのようなカリキュラムを組んでいるか、どのようなサポートをしているか教えてください。

「全体を通して、法律基本科目を着実に修得し、応用・発展へと段階的に実力を養成できるカリキュラムとなっています。本学では、1年次に法律基本科目を中心に学び、さらに別途、基本演習を設け、必修科目の授業を補いつつも、応用力の向上を目指します。実務科目も必修となり、実務家教員による実践的な授業を行います。

法律を理論的に体系的に学べ、実務に必要な素養を身につけるという点で、法科大学院には予備試験の勉強では得られない利点があると言えるのではないでしょうか」

――この学習内容について、学生の反応はいかがでしょうか。

「学習環境、施設にはかなり満足しているように感じます。カリキュラムについては、実務を身につけられたことに加え、おおむね試験に役立ったと思われている修了者が多いようですね。とくに、演習科目に加え、リーガルライティング、クリニック、模擬裁判などの実務基礎科目に力をいれた学生は合格率が高い傾向にあります」

――現在の制度では、予備試験に合格すれば司法試験を受験できますが、法科大学院出身者との違いはありますか。

「予備試験の受験者は、実務科目・臨床科目を学ぶ機会はありません。ですので、具体的な裁判手続および、法曹の仕事のイメージをつかみにくいのではないでしょうか。

理論と実務を架橋することで、生きた法律学を学ぶことこそが、法科大学院の最大の利点。司法修習の一部と位置づけられているのはそのためだと考えています」

――「理論と実務を架橋した法学教育」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

「本学では、法学の基礎的な知識・理論と、実際にそれがどのように法曹の仕事の中で活用されているのか理解できるように、実務科目や、模擬裁判、リーガルクリニック等の臨床科目を充実させました。これを少人数クラスで実施し、つねに教員が学生と質疑応答することで、学生の理解度を計りながら、授業を進行しています」

――予備試験の導入で司法試験制度が変ったことにより、法科大学院は今後どのように変わっていくと思いますか。

「時間と金銭的負担を考えれば、短期的には予備試験の方が効率的と思えるかもしれません。しかし、合格後の就職や実務についてからのことを考えると、法科大学院で学んだことが役に立つはずです。

幅広い人脈を築くこともできますし、単なる受験勉強に制限されない体系的な法律学の学習、実務科目によるイメージトレーニングなども学べます。ここに利点があることは間違いありません」

ビジネスのグローバル化や企業法務のニーズが高まる中、弁護士の需要は拡大し、業務も細分化している。法科大学院が生き残るには、このようなニーズに応えられる学びの提供が必要。受験資格の獲得や法律理論だけではなく、実務を経験できる法科大学院はさらに重要視されるのではないだろうか。

(本記事は、2013年6月時点の情報に基づき執筆されています)