「スーパー駅長」や「和歌山電鐵社長代理」の肩書きも持つ「たま駅長」

人口が減少し、都会に人が集中するようになって以降、地方鉄道で運営に苦しんでいるところは少なくない。だが、そうした中でも、いろいろなアイディアを出して集客を成功させている会社は存在する。その中のひとつが、日本で初めて猫を駅長に任命した和歌山電鐵である。

TVや新聞などで取り上げられて、全国的に有名になった「たま駅長」がいる和歌山電鐵貴志川線は、JR和歌山駅と紀の川市の貴志駅を結ぶローカル線で、2006年3月末まで南海電鉄の支線だった。年間5億の経常赤字と、年5%の逸走率により廃止になるはずだったものを、地元の強い要望で存続された路線だ。

たまたまの出会いによって「たま駅長」が誕生

運営しているのは、岡山県で路面電車などを手がけている岡山電気軌道である。同社で広報を担当している山木慶子さんは、「南海(=南海電鉄)が運営していた時代から、地元の有志に存続のための相談を受けていた縁で、岡山電気軌道が100%出資して和歌山電鐵を設立しました」と説明する。

岡山県で事業展開する両備グループは、50数社の企業のほぼ全部が黒字という優良会社である。それだけの実績を上げている秘密は、「社員全員がひとり何役もこなしているからです」(山木さん)。それは人間だけでなく猫も同じで、タダで養ってはもらえない。だから、たまも駅長の業務をこなすことになった。2007年のことだ。

「たまは、貴志駅に隣接している小山商店の飼い猫で、それまで売店の横に無断で置いてあった猫小屋で飼われていました。ところが、駅の施設が市の所有となり、猫小屋が撤去されることになったので、小山商店のお母さんが開業記念式典に来ていた今の小嶋光信社長に泣きついて、駅で飼われることになりました」と山木さん。

子供たちにも大人気の「たま電車」

もともとは三社参りのための路線だった

両備グループの岡山電気軌道が貴志川線の運営を引き受けるに当たって、沿線の利用状況などの調査が行われた。

「もともとは沿線にある日前宮(にちぜんぐう)、竈山(かまやま)神社、伊太祁曽(いたきそ)神社の三社参りのための鉄道として開業した路線でしたから、観光資源として全国に誇れる資源があるということも、引き受けるきっかけになりました」(山木さん)。

さらに、工業デザイナー・水戸岡鋭治氏(両備グループデザイン顧問)による「いちご電車」など、話題を呼ぶアイディアも出した。ところがそれ以上に、全国で初めて駅長に任命された猫が注目を集めるようになった。「もちろん、たまの持つ魅力もありました」と山木さん。

たま駅長と並んで有名な「いちご電車」

高齢のたまを助けるニタマ

その和歌山電鐵には、「ニタマ駅長」もいる。2012年1月に、たま駅長の就任5周年記念式典で「貴志駅長代行兼伊太祈曽駅長」として指名されたニタマ駅長は、ふだんは沿線で唯一の有人駅である伊太祈曽駅にいる。ちなみにニタマの名は、「たまに似た二番目のたま」ということから付けられたという。

たま駅長は今年で14歳になる。人間で言うと60~70歳に当たる高齢のため、激務には耐えられない。そこで、たまを助けるのがニタマ駅長となる。「たまは年齢もあって、昼は寝ていることが多いので、若いニタマが接客を代行しています」と山木さんは言う。

昼間は寝ているたまだが、愛らしい寝顔を見るだけでも癒やされる。だから和歌山に行く機会があれば、是非、和歌山電鐵に乗って会いに行ってほしい。ニタマも伊太祈曽駅で待っている!

たま駅長(左)とニタマ駅長(右)

ちなみに、2013年6月現在、和歌山電鐵のwebサイトには、たま駅長は火、水、木曜日勤務と記されている。体調によっては急きょ変更になる可能性もあるかもしれないが、駅長目当てで和歌山まで遊びに行くなら、事前にサイトをチェックしてみよう。

ちなみにニタマ駅長は、平日(水・木曜日は公休)は伊太祈曽駅、土・日・祝日はたま駅長に代わって貴志駅に勤務しているので、是非会いに行っていただきたい。

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