毎年恒例となっているCOMPUTEX併催シンポジウム「e21FORUM」の基調講演では、同社でマーケティングを統括するExecutive Vice PresidentのTom Kilroy氏が登壇し、最新のプロセッサを用いてIntelが実現しようとしている新たなモバイルPCの姿を示した。
COMPUTEX TAIPEI 2013で、コードネーム"Haswell"こと第4世代Coreプロセッサーを発表したIntel。毎年恒例となっているCOMPUTEX併催シンポジウム「e21FORUM」の基調講演では、同社でマーケティングを統括するExecutive Vice PresidentのTom Kilroy氏が登壇し、最新のプロセッサを用いてIntelが実現しようとしている新たなモバイルPCの姿を示した。
スマートフォン/タブレットにも注力するIntel
Kilroy氏はまず、モバイル機器のプラットフォームやフォームファクタのトレンドがここ1~2年の間だけを見ても急速に変化していることを指摘した。例として、2012年第2四半期に出荷されたタブレットのOSシェアは、AppleのiOSが約2/3を占め首位だったが、9カ月後の2013年第1四半期には、Androidが過半数となり逆転した。同様に、画面サイズも2012年Q2は大型(9インチ以上)の製品が主流だったが、次第に小型(9インチ未満)の製品もシェアを拡大し、2013年Q1では小型が大型をやや上回る勢いとなっている。また、スマートフォン市場においてもより大型の画面を搭載した製品が増えている。
携帯電話、タブレット、ノートPC、一体型PCといったデバイスの各カテゴリ内で急速な変化と進化が発生しており、そしてそれぞれのカテゴリの間を補完する中間的な位置づけの製品も次々と生まれている。このようなデバイスの市場規模は今年1年で15億台、来年には20億台に達するとみられており、Intelではこの拡大する市場に対して適切な製品を投入していく。
象徴的なのが携帯電話だ。2012年初頭、スマートフォンの市場においてIntelのAtomを採用した製品のシェアはゼロだったが、現在は32カ国でIntelアーキテクチャのスマートフォンが発売されている。まだ端緒についたばかりではあるが、新たな市場にも版図を広げようとするIntelを動きはいよいよ具体化している。
タブレットに関しての取り組みは、もともとWindows PCでの長い実績があるだけにさらに力強い。現在では、IntelアーキテクチャはWindowsとAndroidの両方を手厚くサポートしており、ハードウェアベンダーは一般消費者および法人ユーザーの要求に応じて、Intelプロセッサを使用したWindowsタブレットとAndroidタブレットの両方を製造販売することができる。
これまでARMアーキテクチャのプロセッサに先行されていたスマートフォン/タブレット市場において、Intelが遅れを挽回するための切り札として用意しているのが、コードネーム"Silvermont"で呼ばれる次世代のAtom向けアーキテクチャだ。このアーキテクチャをベースとしたプラットフォームとして、同社ではスマートフォン向けの「Merrifield」、タブレット向けの「Bay Trail-T」を用意しており、2014年第1四半期、2013年末にそれぞれ採用製品がリリースされる予定。今回の基調講演ではBay Trail-Tタブレットの試作機が登場し、3Dグラフィックスを用いたゲームや、4K動画の再生をスムーズに楽しめる様子が披露された。
年末にBay Trail-Tベースのタブレット、来年Q1にMerrifieldベースのスマートフォンが登場予定。CPU(SoC)に加え、Intel製のLTEモデムもあわせて提供する |
Bay Trail-Tではグラフィック性能も大幅に向上し、カジュアルゲームだけでなく本格的な3Dグラフィックを使用したゲームも用途に入ってくる |
Haswellが実現するモバイルノートの新トレンド「2-in-1」
続いて、講演のトピックは今回のCOMPUTEXで最大のトピックとなっているHaswellに移った。
タブレット市場の伸長にともない、PC市場に陰りが見られるようになったという見方が強いが、Kilroy氏は米国のオンラインニュースの一部を引用する形で、「PCは死んだ」「PCは健在」という2説のうち正しいのはどちらかと聴衆に問いかけた。
一見相反する2説のように見えるが、Kilroy氏の答えは「両方正しい」。Intelは2年前のCOMPUTEXでUltrabookを発表したが、そこに込められた意図は、ノートPCを「再発明」し、従来のモバイルノートでは得られない快適性を提供しようとするものだった。つまり、従来のスタイルのPCは市場規模を縮小していくかもしれないが、新しい形態のPCが生まれることでPCというデバイスは今後も生き永らえるというわけだ。
Ultrabook発表から2年、PCの再発明の第2弾としてIntelが打ち出したキーワードは「2-in-1」だ。2-in-1とは、ノートPCとしてもタブレットとしても使えるデバイスのことを指している。2-in-1デバイスにはさまざまな形状が考えられるが、代表例としては、ノートPCのように折りたたみ型ながらディスプレイ部分とキーボード部分を分離できる「デタッチャブル型」が挙げられる。
ノートPCは、当然のことながらこれまでユーザーが使用してきたアプリケーションやデータをすべて利用することができ、とりわけビジネスシーンにおける文書編集やデータ処理には欠かせない。一方のタブレットは、キーボードやマウスがなくても簡単に扱えるようタッチ操作に最適化されており、ノートPCに比べ薄型軽量でバッテリーの持ち時間も長いといったメリットがある。特にWebサイトや動画などのコンテンツを楽しむ用途では利便性が高い。これまでユーザーは、シーンに応じてノートPCとタブレットのどちらを使用するか選ばなければならなかったが、最高のノートPCと最高のタブレットを同時に実現するのが2-in-1デバイスであるとIntelは主張する。
Haswellこと最新のCoreプロセッサーは、バッテリー駆動時間とグラフィック性能の向上を最大のテーマとしている。2011年の"Sandy Bridge"(コードネーム)、2012年の"Ivy Bridge"(同)と毎年新世代のCoreプロセッサーを投入してきたIntelだが、今回のHaswellにおける進化はこれまでのどの世代間よりも大きなものとKilroy氏は強調。HaswellによってPCのバッテリー駆動時間は最大1.5倍、グラフィック性能は最大2倍に伸びるため、従来のUltrabookよりさらにパーツの実装や冷却、電力条件など厳しくなるデタッチャブル型の2-in-1デバイスにおいても、高い性能を得られるとしている。
より優れたUltrabook、そして新たなカテゴリである2-in-1を実現するためのキーコンポーネントとして登場したHaswellこと第4世代Coreプロセッサー |
毎年「新世代」を銘打つCoreプロセッサーを発表してきたIntelだが、Haswellではこれまでのどの世代間よりも大きな進化を遂げたとしている |
2-in-1の登場で
基調講演の後には、Kilroy氏の講演内容を捕捉する形で、同社PCクライアント事業本部長でExecutive Vice PresidentのKirk Skaugen氏が2-in-1への取り組みの詳細を説明した。
スマートフォン/タブレットとノートPCは一部競合する部分もあるデバイスだが、基本的にはスマートフォンおよびタブレットは情報を「消費」するためのデバイスであり、対するノートPCは情報を「創造・生産」するためのデバイスだ。今回Intelが繰り返し強調している2-in-1は、UltrabookのようなモバイルノートPCと、タブレットとの間を補完するカテゴリであり、シーンに応じて消費のためにも使えるし、創造・生産のためにも使えるデバイスとして位置づけられている。
Intelでは、今年の年末商戦期において2-in-1デバイスのモデル数は今年春時点の10倍に達するとみており、Ultrabookやタッチ対応PCの市場がこの1年ほどで大きく成長したのと同じかそれ以上に伸びる製品カテゴリであるとSkaugen氏はアピールする。同社がアメリカ、中国、ドイツの消費者を対象に調査したところ、2-in-1の中で最もニーズが大きいのはデタッチャブル型だが、ディスプレイをスライドすると下からキーボードが現れるスライダー型や、キーボード部分が分離しないもののディスプレイを回転させるとキーボードを意識せずタブレットのように使えるスイーベル型・フォルダー型なども人気があるという。
興味深いのは、2-in-1によってタブレットとPCの垣根が取り払われたことで、Intelの製品ラインナップからも境界線がなくなっていることだ。Skaugen氏が示したスライド資料にもある通り、2-in-1にはCoreプロセッサーを採用し、Ultrabookの延長として設計される製品がある一方、Atomベースのタブレットを進化させる形でBay Trailプラットフォームを利用する製品も今後登場する。Kilroy氏、Skaugen氏とも、プレゼンテーションでは今回の目玉であるHaswellを最前面に出してアピールするというよりも、HaswellとBay Trailという2つのトピックについて説明し、2-in-1デバイスではより幅広い選択肢を提供していくというビジョンを示す構成をとっていた。
Ultrabookとタブレットの世界を融合する2-in-1デバイスだが、このスライド資料でも表現されている通りBay Trailベースの製品も今後登場してくる形となっており、"Core"と"Atom"の世界も融合しつつある |
Bay Trailプラットフォームに関しては、タブレット向けのBay Trail-T以外にも、エントリークラスのモバイルノート(と2-in1)向けに"Bay Trail-M"、エントリークラスのディスプレイ一体型デスクトップPC(AIO)向けに"Bay Trail-D"が用意されているが、Skaugen氏は報道陣との質疑応答の中で、PC向けプラットフォームとなるBay Trail-MおよびBay Trail-DについてはPentium/Celeronブランドで販売していく方針を示した。Pentium/CeleronはCoreアーキテクチャのエントリー製品に用いられるブランドだったが、従来であればAtomで呼ばれていた製品の一部にも今後は付与されていくことになる。CoreとAtomの両製品群は対象デバイス、アーキテクチャ、ブランドがいずれも独立しており、異なる世界に向けた製品だったが、新たなカテゴリのデバイスが登場してきたことで、その境目は次第に曖昧になりつつあるように見える。(なお、同社モバイル&コミュニケーション事業本部長のHermann Eul氏は、タブレット向けのBay Trail-Tに関してはAtomブランドを使用する方針を示している。)