キリンビールは5月14日より、「新ジャンル」カテゴリーの新商品、「キリン 澄みきり」を全国で発売している。発売前の「従業員直筆メッセージ付きのサンプリング」など、ユニークなキャンペーンも功を奏し、発売からわずか1週間で100万ケース(大びん換算)突破。異例の好セールスを記録している。
前回は「新ジャンルの新スタンダードを作る」との熱い思いを取材したが、今回は、このヒットの理由は何か、そして「キリン 澄みきり」が目指す「新ジャンルの新スタンダード」とは一体どのようなものなのかについてキリンビールを取材した。
発売から1週間で100万ケースを出荷
――キリンビールのFacebookにも、たくさんのコメントが寄せられていますね。
土屋さん「正直びっくりしています。『キリンじゃなくちゃつくれないものを、もう一度つくろう。』と我々の思いを率直に訴えたつもりですが、そこに反応してくださったということで、感動しています」
――どのような声が多かったですか?
土屋さん「最初は皆さん、半信半疑でトライしたと思いますが、『想像以上においしい』といった声をたくさん頂きました。『すごいよ、いけてるね』と」
北島さん「Twitterなどを見ていると、『話題のキリン 澄みきりが』『おいしいと噂のキリン 澄みきりが』という書き込みが発売以降増えてきました。また、飲み飽きない、毎日飲める、という声を多く頂いたのはうれしかったです」
――実際に売り上げも好調ということですが、具体的にどのくらい売れていますか?
土屋さん「発売から1週間で100万ケース(大びん換算)を出荷しています。これは、8年前に発売した『のどごし〈生〉』以来の好調な記録です。今年出ている新商品の中では、群を抜いてお客さまのトライが進んでいます。
直近の新商品でも、100万ケースに達するまでには1~2カ月かかっているので、それと比べても多くのお客様に手にとっていただいています」
――ズバリ、好調の秘けつは?
北島さん「ネーミングや味、原料といった話にとどまらず、キリンの技術を結集したというストーリーを乗せた新ジャンルは今までなかったので、そうしたモノづくりへの姿勢や、私たちの思いもうまくお客さまに伝わっているのだと思います」
100%の人に満足してもらうことが目標
――改めてうかがいますが、なぜ今、このタイミングで新商品ができたのでしょうか?
土屋さん「新ジャンルでは『のどごし〈生〉』という大型商品があり、ここで無理しなくてもいいのではという考え方もありました。しかし、まだ4分の1のお客さまは『新ジャンル』の味や飲みごたえに満足していないという調査結果があり、これが一番大きなモチベーションになっています」
――裏を返せば、4分の3の人は満足している、とも言えますが……。
土屋さん「毎日家庭で一番多く飲んでいただいている身近なカテゴリーなので、ビールメーカーとしてはやはり100%を目指したいですよね。そのためには、現状の提案をしている限り、永遠にこの4分の1は埋まらないと考えました。
例えば、既にある『のどごし〈生〉』とはこの部分を変えよう、他社とはここが違うよ、ではだめなのです。毎日飲んでも飲み飽きないスタンダードへの要求に対してどう答えるか、という根本から考え直しました。絶対的な価値として『キリン 澄みきり』を新しいスタンダードにしたいのです」
――従来の製品と「キリン 澄みきり」との決定的に異なるところは何ですか?
土屋さん「『キリン 澄みきり』は一日の終わりに心澄みきった時間を提供したい、というコンセプトを掲げていて、それがネーミングやパッケージから感じていただけると思います。
『のどごし〈生〉』が出た後の商品は、こんな原材料を使っている、こんな新製法、テイストだといった提案がほとんどでした。『キリン 澄みきり』は味だけではなく、こんな時間に飲んでほしいといった提案までしています」
北島さん「『のどごし〈生〉』を発売した8年前と今回の『キリン 澄みきり』とでは、時代の変化もあります。8年前は新ジャンルというカテゴリーができて間もないころで、お客さまの期待感もあり、『元気な明るいお父さん!』のような『のどごし〈生〉』という個性も受け入れられたと思います。
現在は、SNSの普及によってメーカー側の発信だけでなく、お客さま同士のコミュニケーションの中で話題になり、購入につながっている側面もあるのではないでしょうか」
――確かに、SNSの普及は大きいですね。
北島さん「情報があふれる今の時代では、取捨選択に迷うことを嫌い、本質的でシンプルなものを好む傾向にあると思います。iPhoneはその一例ですよね。『キリン 澄みきり』にも、あれもこれもあるよ、と情報を盛り込むのではなく、シンプルなデザイン、飲用シーンの提案に努めています。本質的に良いものは、それほど多くを語らなくても佇まいで伝わるだろうと」
土屋さん「お客さまの満足を追究した結果、毎日飲んでも飲み飽きない味を基軸にし、『澄みきった時間までの提供』というコンセプトを打ち出して……。当たり前のことをきちんとやったことが大きいかなと思います」
――想定する「飲用シーン」について、詳しく教えてください。
土屋さん「主に30代男性をターゲットにしています。平日夜遅くまで仕事をされて、家に帰ると家族はもう寝ている。一人で夕食を食べながら、一日の疲れを洗い流して明日への活力にしていただく……。そうした飲用シーンを提案しています」
気持ちが澄みきって、明日への活力に
――「キリン 澄みきり」は、リーフレットに従業員手書きのメッセージを書くなど、発売前のユニークなプロモーションでも話題になりました。今後新たな展開として考えていることはありますか?
北島さん「夏場に向けては、直感的に『キリン 澄みきり』を飲みたい! と思っていただける仕掛けとして、体験イベントを考えています。今までの新ジャンルの延長線上ではなく、『キリン 澄みきり』らしさを突き詰めてプロモーションを展開していきたいです」
土屋さん「『キリン 澄みきり』ってどんなヤツなのか? と、ブランドのキャラクターをわかっていただける努力をしなければと思います。おいしいかおいしくないか、という点でおいしいのは当たり前として、その次の段階として好きか嫌いか? という次元で、支持されるブランドを目指したいです」
トヨエツのCMでも話題に
「Smoke on the water」(Deep Purple)をBGMに、豊川悦司さんが甲冑に身を包むCMを目にした人も多いのではないだろうか? その中で豊川さんが言う「新ジャンルに対して世の中の4分の1は満足していない」というセリフが印象的だ。
――豊川悦司さんのCMも、続編があるのでしょうか?
土屋さん「CMの放映が始まり、手前みそですが豊川さんが良いことを言ってくれています。戦国武将が思い悩む現代人の背中を押していくというストーリーに、『キリン 澄みきり』という商品のパーソナリティを重ね合わせているんですよ。CMはこれからも続いていきますのでご期待ください」