驚くべきことに46歳のB子の旦那の年齢は16歳も年下

今年46歳になるB子は、ある化粧品店で20年以上も働いている女性だ。今年1月に遅ればせながら初婚を果たし、現在は新婚生活真っ只中。B子は若いころから仕事一筋の生活を送ってきたためか、なかなか出会いに恵まれず、結婚をあきらめかけていた時期もあったのだが、昨年秋にひょんなことから出会いがあり、交際わずか3カ月で電撃結婚と相成った。

結婚当初、B子はあまりに予想外の展開にキツネにつままれたような気分だった。しかし、いざ新婚生活が始まってみると、現実感が増してきて、今では遅れてきた春を噛み締めるように日々を幸せに過ごしている。

というのも、驚くべきことに、B子の旦那の年齢は今年30歳、自分より16歳も年下なのだ。B子は自分に訪れた奇跡的な運命に深く感謝した。まさか40代半ばになって、こんな若い男との出会いがあるとは夢にも思わなかった。そして、その男と結婚までできるとは、神様も捨てたものではない。今まで仕事を一生懸命頑張ってきた、ご褒美かもしれない。

「やっぱり若くてお洒落で、かっこいい男はいい」

旦那と出会う前のB子は、16歳も年下の男はさすがに子供すぎて、自分の好みではないと思っていた。それはある食事会で彼と出会ってからも変わらず、最初は彼のことを男として見ていなかった。しかし、その席で彼に連絡先を訊かれ、デートに誘われたとき、そんなB子の凝り固まった考えはいとも簡単に変わった。髪形も服装もお洒落でスタイルも良く、そして何よりも若々しい彼のルックスと、情熱的な言動、みずみずしい雰囲気に、B子の中の眠っていた女心が久しぶりに目を覚ましたのだ。

やっぱり若くてお洒落で、かっこいい男はいい。B子は自分が40代半ばであることも忘れ、まるで青春時代に戻ったかのように彼に夢中になった。一緒にデートをしても、彼の若さゆえの未熟な部分が、逆に愛おしく感じ、母性本能がくすぐられてしまう。

今まで若い男を圏外扱いしていたのは、きっと自らの積極的な意思ではなく、一種のあきらめからくる言い訳だったのだろう。こんな若い男が自分のようなオバサンを好いてくれるはずなんかない。本音ではそう思っていても、それを認めることには抵抗があり、だからこそ自分から「若い男には興味がない」と遠ざけていただけだったのだ。

実際、彼と出会った当初のB子は、彼のことを信じられなかった。こんな若い男が自分のようなオバサンを誘った真の目的はなんだろう。まさか女として見られているわけはないだろうから、考えられるのは金か? そう疑っていたB子だったが、彼が「本気で好きだ」と何度も言ってくれたことで、徐々に信じられるようになり、現実を受け入れられるようになった。こうしてB子は彼と恋仲になり、現在の新婚生活に至ったのだ。

「B子さんは年齢より若く見えるね」、それ以降自分の"スッピン"を見せていない

だが、そんなB子にも、彼と出会って以降、結婚した今もかたくなに守り通していることがある。それは、いまだに彼に自分の"スッピン"を見せていないということだ。

付き合いたてのころは、そこまで深く考えていなかった。16歳も年下の男とデートをするのだから、少しでも自分を若く、魅力的な女性に見せようと、出かける前におめかしに励むのは当然だろう。それこそ頭のてっぺんから足のつま先まで一切の妥協なく、完璧に自分を装飾し、なるべく彼の若さと釣り合いをとろうとしたものだ。

それに対して、彼が無邪気に「B子さんは年齢より若く見えるね」と言ってくれたのが、B子にとっては至高の喜びだった。だからB子はいつどんなときも、彼の前では完璧なメイクを欠かさなくなった。初めて夜を共にしたときもそうだ。隣で彼が寝静まるのを待ってから一人でこっそりメイクを落とし、そして彼が目を覚ます前にこっそり起きて、再びメイクをする。そして、いつしかそれがB子にとっては当たり前になった。

彼のように若い男が自分のスッピンを見たら幻滅するかもしれない。B子の中にはそんな不安があった。彼は完璧なメイクをした自分の姿しか見たことがなく、それに対して「B子さんは若く見える」と言っているのだ。そう考えると、どうしてスッピンなんか見せられようか。メイクを落とした自分は、40代半ばなりの、くたびれた顔をしているのだ。

かくしてB子は結婚した今も、愛する旦那にスッピンを見せないよう、細心の注意を払っている。旦那は毎晩1時に眠り、毎朝7時に起きる生活を送っているため、B子は1時以降にメイクを落として就寝し、朝5時半には起床してメイクを完璧にするという、実にストレスフルな生活サイクル。平均睡眠時間は4時間を切っている。

"スッピン"を見せないため、最近の睡眠時間は3時間を切る

しかも、最近になって旦那が朝のジョギングを日課として始めたから、ますます厄介である。それによって旦那の起床時間が前倒しされて6時になり、B子としては最低でも4時半には起きないと、メイクが間に合わなくなったのだ。

こうなったら睡眠時間は3時間を切ってしまう。B子は結婚後も化粧品売り場の仕事を続けているため、あまりに睡眠不足になっては仕事中の体力がもたない。いっそ仕事をやめて専業主婦になれば、旦那が仕事に出かけてから眠ることができるのだが、旦那はまだ若いから収入も少なく、どうしても共働きにならざるをえない。

したがって、最近のB子のテーマはいかに旦那を早く寝かせるかである。若い男との結婚生活も、決していいことばかりではないようだ。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。1976年大阪府出身。早稲田大学卒業。『神童チェリー』『雑草女に敵なし!』『SimpleHeart』『芸能人に学ぶビジネス力』など著書多数。中でも『雑草女に敵なし!』はコミカライズもされた。また、最新刊の長編小説『虎がにじんだ夕暮れ』(PHP研究所)が、2012年10月25日に発売された。各種番組などのコメンテーター・MCとしても活動しており、私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。

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