ELT、浜崎あゆみ、EXILEのデビュー秘話
こうして音楽レーベルとしての足固めを進めていった松浦氏。小室哲哉らの活躍で、"エイベックス"という企業がその後大きくなっていったのはご存知のとおりである。
そうした中、松浦氏は1997年から自身でもアーティストのプロデュースを始める。その理由については「小室さんが威張って仕方がなかったから(笑)」と笑いを誘った後、「小室さんがいなくなったときの会社への影響度を考えて」と経営リスクを考慮しての選択だったことを明かす。「やり方は見ていたので自分でもできるのではないかと思えた」と、当時の心境を語った。
講演では、自身がプロデュースしたアーティストのデビュー秘話も紹介。
Every Little Thingに関しては、「ある日、持田香織が”TRFになりたい”と、母親と一緒にやってきた。歌声がZARDのようだったので、『友&愛』上大岡店の元店長で、当時、某スタジオの電話番をしていた五十嵐充(後にELTにメンバー入り)に曲を作らせ、毎週日曜日に収録してデモテープを送らせた。小室さんや織田哲郎さんには採用してもらえなかったが、いけるかもと思い、自分でプロデュースすることにした」と説明。
浜崎あゆみについては、「元々は、かわいいと評判だったベルファーレの店員。芸能事務所にも所属していたが、エイベックスでやりたいと言い、事務所をやめた。当時すでにドラマやグラビアにも出ていたので、1年間ニューヨークに行かせて、昔のイメージを断ち切り、アイドルっぽさが表に出ないようにした」と明かした。
さらに、EXILEのリーダーHIROについても「ZOOのメンバーとして活躍していたが、それ以前から『友&愛』上大岡店の常連客として付き合いがあった。ZOOの解散後にプロデュースのお願いに来たので、『最終的にものにできるかどうかは自分次第』と忠告した上で、チャンスをあげた。TRFでダンサーとボーカルの仲が悪くなっていくのを見ていたので、ダンサー中心でユニットを組まないと、将来的に後ろに追いやられる可能性があるというアドバイスもした(笑)」と、デビューのきっかけを振り返った。
こうした例を挙げた後、松浦氏は「ご覧のように内輪でのプロデュースが多い。よく見れば身近なところにも才能があるということ(笑)」とコメント。そしてプロデュース成功の秘訣については、「最後までアーティストを信じてあげること」との考えを示した。
映画を映画館だけで流していても儲からない
エイベックス・グループは、2009年にNTTドコモとともに動画配信サービス「BeeTV」をスタート。スマートフォンの普及に合わせて急激に会員数を伸ばし、音楽CDの売れない現代において同社の売上げを下支えしている。
BeeTVを始めた経緯について松浦氏は次のように語る。
「CDが売れなくなることも見越して、映画の配給にもチャレンジしてきたが、成功したのはレッドクリフなどごくわずか。映画は、やりはじめると引き込まれてしまうが、ビジネスの仕組み的にもうからない。そこで、映画館以外で流せるスクリーンを探し、行き着いたのが携帯電話だった。当時はまだフィーチャーフォンしかなかったが、すでに海外ではiPhoneが発売されており、スマートフォンが普及することは間違いない情勢だった」
BeeTVは貸しレコード屋と同じ会員ビジネス。松浦氏にとっては経験のある分野。「まずは会員を増やさないと話にならない。コンテンツよりも、会員を増やすことを優先して、サービスの拡充を図った」と注力ポイントを語った。
さらにエイベックス・グループでは昨年、ソフトバンクモバイルとともに動画配信サービス「UULA」も開始。BeeTVと同様のサービスをソフトバンクユーザーに対しても開始している。
常識を知らないから革新を続けてこられた
こうした講演の締めくくりに、松浦氏は、「時代や環境が移り変わっても変わらないこと」と題して、以下の3つの考えを紹介した。
- 誰もやらない。だからエイベックスがやる
- いつも、すべてに疑問を抱く「何でだろう?」
- 業界の常識は非常識
特に強調したのが、「業界の常識は非常識」。音楽業界初の試みを続けてこられたのは、「常識を知らなかったからというだけ」と理由を分析する。しかし、「知らなかったからこそ自由に挑戦できた」と続け、昨年開始したUULAに関しても、「ドコモと一緒にやっているのに、ソフトバンクと始めるなんて考えられないと言われたが、これも携帯キャリア業界の常識を知らなかったからこそできたこと」と振り返る。
そのうえで、「現在はエイベックスの常識が業界の常識という雰囲気になり、非常識なことがやりづらくなっている。若手も過去のやり方に倣っているような風潮があり、保守的になりつつある。そんな状況のなかで怖いのは、まったく異なる業界から挑戦してくるケース。例えば、IT出身の企業が音楽業界で革新を起こすなんていうのも今後十分に起こりうる話」と語り、聴講者に対してチャレンジを促しつつ、エールを送った。