内閣府の有識者会議は28日、マグニチュード9クラスの南海トラフ巨大地震対策の最終報告書を発表した。報告書は、「地震の規模や発生時期を高い確度で予測することは困難である」とし、事前防災が極めて重要との考え方を示した。

有識者会議の調査部会(座長:山岡耕春名古屋大学大学院教授)では、地震発生直前に前駆すべりが起きるとの観点から地震予知の可能性について検討。その結果、前駆滑りと推測される観測事例はあるものの確実ではないほか、前駆すべりが検知されないまま地震が発生したり、あるいは発生しても地震が起きない場合もあるなど、地震発生に至る過程が多様であることがわかった。

南海トラフ巨大地震の想定震源断層域(出典:内閣府防災情報のページWebサイト)

これらを踏まえ調査部会は、南海トラフでは検知し得る前駆すべりが起きる可能性は相対的に高いとしながらも、「予測は不確実性を伴い、直前の前駆すべりを捉え地震の発生を予測するという手法により、地震の発生時期等を確度高く予測することは、一般的に困難である」と結論づけた。

一方、有識者会議の作業部会(主査:河田恵昭関西大教授)は、最終報告書の中で事前の防災対策が極めて重要だと指摘。「まず地域で自活するという備えが必要」とし、各家庭で水や食料などの備蓄を1週間以上確保するよう求めたほか、地方公共団体に対しては、孤立する可能性がある集落において、1週間程度の生活物資、医薬品や備蓄倉庫などの準備を進めるよう訴えている。

予想される巨大津波に対しては、迅速かつ主体的に避難行動が取れるよう、「自助」「共助」の取組みを強化する必要があるとし、情報伝達や海外保全施設、避難施設などを組み合わせた総合的な津波対策が不可欠だと主張。また、行政関連施設や学校、医療施設などの重要施設については、高台への事前移転を提言している。

広範囲で発生する強い揺れに対しては、住宅・建築物の耐震診断・耐震改修、重要インフラの耐震化などの取組の強化が重要だと指摘。施設分野ごとの耐震基準を基にした対策を求めるとともに、安価で効果的な住宅の耐震化技術の開発・普及を要望している。

また、避難者が大量発生し、通常想定している避難所だけでは大幅に不足すると考えられることから、避難所に入る被災者の優先順位を決める「トリアージ」方策を新たに盛り込んだほか、道路交通などが復旧した後、被災地外への広域避難や疎開などを検討すべきとした。

このほか、医療対策については、EMIS(広域災害救急医療情報システム)を用いた情報共有、野外病院の開設、医薬品備蓄の充実などを提言している。