――屋外ロケとセット撮影であれば、どちらがやりやすいと感じますか?

どっちも好きなんですけど、ここ3~4年でセット撮影の依頼が多くなってきて、ロケが少なくなったと感じています。というのも、(被写体となる人に)タレントさんが多いからかもしれません。ロケって、昼の時間帯じゃないと難しいですし、遠出するので時間もかかってしまう。女優さんやタレントさん、ミュージシャンの方だと、撮影にそんな時間をかけられない事情がありますね。

――ところで、現場ではどのような形で撮影を進めていかれるのでしょうか?

現場では撮り方というか、「距離感」を調整していきます。その方の顔を見れば、何となくですが状態は分かるので、いきなり近くから撮ってもいいのか、逆にゆっくり近づいていいのか、という部分を見て行きます。何度も撮っている方でしたら、現場に入ってきた瞬間に「あ、今こういう状態だ」と大体のことは分かりますね。

――これまで映画監督として『さくらん』、『ヘルタースケルター』などを手がけていらっしゃいますが、映像づくりをする際と、カメラマンとして写真撮影をする際に、演出方法や創作の感覚などの違いというものはどの程度あるのでしょうか?

やっぱり全然違います。同じことのほうが少ないです。でも、(撮影対象に)信頼して身を任せてもらうという点ではどちらも同じですね。

特に映画なんて、長い時間を一緒に過ごして、お互いのすべてを出しながら撮っていくので、そこに信頼関係がないと話し合うことすらできません。信頼って、ものを作る時に最重要なことだとつくづく思います。

写真を撮る時も、緊張しすぎていたり、信頼されていなかったりすると、それが表情に出てしまいます。写る方にどれだけ自分を解放してもらえるか、限られた時間で信頼を築くには経験値も必要で。セットを組んで何をするかというよりも、一番重要なのは信頼だと思っています。

――被写体の方と信頼を築くにあたって、どういったことに気をつけていらっしゃいますか?

それが、不思議と言葉で話せば通じるものでもなくて。人の「感じの良さ」って、喋れば喋るほど良いと思えるわけではないと思っています。お会いして挨拶して、どういう笑顔でほほえんでいるのかという部分は、いっさい小細工が聞かないんですよね。やっぱり、人としてちゃんとしていること、1つひとつの仕事をいかに誠実にできるかということを大事にしています。

――近年iPhone用アプリの監修などもされていますが、一般の方が蜷川さんの写真のテイストを真似てみるにあたって、おすすめの被写体などありますか?

どの被写体を撮れば私っぽくなるか、というのはちょっと違うのかなと思っています。もちろん、ビルを撮るよりはお花を撮ったほうが近いような気もするんですけど(笑)

先ほどの話と同じで、小手先のことじゃなくて、ご自分の好きな物に対して、好きだなと思って撮ることがすごく重要だなと思います。本当に不思議なんですが、気持ちって写真に本当に写るんです。好きだな、きれいだなと思いながらシャッターを押せることが重要な気がしていて。お母さんが撮る子供の写真っていい写真が多いみたいに。だから、好きな物や、人をとるのがいいんじゃないかなと思います。

――対象を好きだと思う気持ちが最も大切なんですね。

はい、そうだと思います。技術的なことって後からついてくるものなので。どれだけ気持ちをこめて撮れるかという部分は、仕事の量が多くなればなるほど、経験値が多くなるほどに重要な気がしています。

私の場合、毎日いろんな方を撮っているのですが、今日、撮影する人のことをどれだけその瞬間に愛せて、関係を作れるかがすごく重要なんです。

――最後に、蜷川さんが今撮ってみたい人物をお教えください。

それはもうたくさんいらっしゃるのですが、最近撮らせていただいて、いいな、と思ったのは二階堂ふみさんです。撮っていてすごくおもしろくて、もっと撮ってみたいなと思いましたね。あと、橋本愛さんも、もっと撮影してみたいです。

それから、男性だと窪田正孝君は久々にすごい、キタ!と思いましたね(笑) あと斎藤工くん。彼はずっと前からいいなと思っているのですが、長期間にわたって撮らせていただいているとぐっとよくなる瞬間があって、それが今だと感じています。

――ありがとうございました。

撮影:永島麻実