――蜷川さんの作品からは一貫して鮮やかな色彩や華やかさを感じるのですが、色の合わせ方や色の引き出し方などはどのように発想されているのでしょうか?
このことは本当によく聞かれるんですけど、(色の合わせ方や引き出し方は)すべて自分の中にあると思います。大学生のころは絵を描いていたのですが、それも今撮っている写真のような色合いでした。大学で学んだ絵画の手法が、今の私の色合いに繋がっていると思います。でも、こういう色にたどり着くまでの苦労は特になくて、自分が気持ち良いと思うことや、好きだなと思うことでやっていくと、自然とこうなっていくんです。撮っている最中は、自分の体内にある気持ちがいいバランスに従っているんだと思います。
ただ、撮った後であれば調整することはあります。例えば展示の時であれば、(作品が)より鮮やかに見えるように補色同士で合わせたり、リズムを崩すためにあえて同じ色味を並べたりだとか。
――では、色味以外の部分で、蜷川さんらしさを引き出すために工夫されている部分はどんなところにあるのでしょうか?
個展まで開いておいてあまり説得力がないかもしれないのですが、仕事をしている上で「自分の色を出したい」という気持ちがそこまで強くないんです。それに、例えば女優さんであれば、その方が出演した映画を思わせるような仕掛けがあったりとか、ファッションブランドの依頼であれば「この靴が見えるように」と指定があったりします。でも、そうした「役割」が終わってから集めてみると、ああ、自分のやりたいことってこんなに入っていたんだなと実感しました。
幸運なことに、お仕事をくださる方の要望の中に「蜷川さんっぽく撮ってほしい」というようなことが入っていることもありますが、仕事として与えられたことにどのように返せるか、というところにひとつずつ誠実にお答えしています。ポートレートを撮っている時は、自分の色を出すというよりも、その方の素敵なところを探していくことが圧倒的に多いです。
――では、撮影の際は被写体の方とコミュニケーションを密に取りながら進めていくのでしょうか?
コミュニケーションといっても、多くの場合、(被写体となる人物と)事前にお話できることってすごく少ないので、まず想像します。こういうことをやってきた方だったら、おそらくこういった事柄が好きなんじゃないか?、と。逆に、今までやったことのないことを仕掛けたら面白がってくださるかな?という方向で準備を進めることもあります。もちろん、機会をいただける場合はお話しすることもあります。
――被写体となる方について、事前にかなり調べていらっしゃるんですね。
はい。というのも、被写体となる方には現場で初めて対面することが多いんですよ。CDジャケットの撮影など、その方に深く関わることだったら事前にお会いできることもあるのですが、雑誌のお仕事などの場合は、現場で「はじめまして」を言うことが多くて。その場合、お会いしてお話した後にセットの内容を変えることはできないですから、事前に想像をふくらませることが大切になってきます。
あと、これは特技だと思っているのですが、まだ全く知らない方を撮る時にネットで画像検索をして、(被写体となる人の写真を)ばーっと50枚くらい見ていくと、きっとこういう方で、こういう雰囲気じゃないかと分かって、実際にお会いした限りではそんなに外れないんです。それに加えて、その方のインタビュー記事などを読んだりしています。