感性価値を見いだせる製品作りに明るい兆しが見えた一方で、エレクトロニクス事業の黒字化は課題として残った。これについて、「エレクトロニクス事業の回復は道半ば。サステイナブル(持続可能)な成長を実現させるために、スピード感をもって確実に実行していく」と語り、2014年に向けた今年度の基本方針について説明を始めた。
2013年度の基本方針は「グループ 売上高 8兆5000億円、営業利益率 5%以上、ROE 10%(ROEは当期純利益を自己資本で割ったもの)」「エレクトロニクス事業 売上高 6兆円、営業利益率 5%」を目指す。
これらの数字を達成するためには、「市場環境の急速な変化に対応し、競争に勝っていくことが必要」と平井氏。縮小するAV市場に対し、急成長を遂げているスマートフォン・タブレット市場にいかに対応していくかが鍵になるという。「従来の事業戦略、商品戦略の考え方だけでは通用しない」といい、厳しい事業環境を認識した上で取り組む考えを示した。
2013年度の基本方針は、コア3事業の変革を加速し、その中でもモバイル事業の事業拡大と収益改善、テレビ事業の黒字化は必達の目標とした。また、新興国での成長戦略の加速、メディカルやセキュリティの新規ビジネス強化、事業ポートフォリオの更なる見直しも行っていくという。
モバイル事業で"One Sony"を体現
コア事業での取り組みについて、モバイル、イメージング、ゲームとそれぞれの方針を詳しく語った。
モバイル事業については、昨年2月にSony Ericssonを完全子会社化し、Sony Mobileへ。10月からは、スウェーデンのルンドにあった本社機能を、徐々に東京へ移管している。また、東京、ルンド、中国の北京と、各開発拠点の強みを生かした体制作りや機能の明確化を図っていくという。
これらの取り組みに加え、Xperia Zの開発でも見られたソニーグループとの密な連携により、設計リードタイムを大幅に短縮、商品化のスピードを速めることで、「Xperia Zは序章に過ぎない。今年度は、主要オペレーター(携帯電話事業者)との関係を強化し、ソニーの総合力を生かした最新かつ最強の商品をタイムリーに投入していきたい」と熱を込めて語った。
イメージング事業は、「ソニーの強みを遺憾なく発揮できている」と平井氏。裏面照射型CMOSイメージングセンサー、積層型CMOSイメージングセンサーは技術的に、そして事業的にも業界をリードしてきたという。今年度は、プロフェッショナル、コンシューマー双方の様々な用途に向けて、最終製品を魅力的に差異化できる新たなセンサー技術の事業化を進めるとしている。
また、中長期的な取り組みとして、可視光領域を超えたセンシング、被写体との距離、動き、形状、色などを識別するセンシングの用途を更に広げる技術開発を継続していくという。プロフェッショナル領域では、4K、シネマ用カメラに注力し、セキュリティ、スポーツやメディカルなどにも転用していくという。
一般消費者向けのデジタルカメラ市場では、市場を取り巻く環境が大きく変わる中で、高付加価値モデルにシフトし、RX-1、RX100が成長ドライバーとなっている。今年度は、更なる高画質化、小型軽量化、高倍率ズームを強化することで、売り上げを拡大していくとしている。また、デジタルカメラ市場で数少ない成長カテゴリであるミラーレス一眼カメラでも、現在の世界1位の座をキープしていくと意気込みを語った。
PS4は多くを語らず
ゲーム事業ではPS3が安定したハードウェア、ソフトウェア共に安定した売り上げとなっている。特に、ネットワークを通じたデジタルコンテンツやサービスの売り上げが増加。2012年度は、前年度比1.7倍以上の1170億円を達成。2013年度は更に1.5倍の売上高を予測している。
プレイステーションネットワークでは、ゲームの売り上げ比率が9割を超えており、ゲームのアイテムダウンロード数は30億個に上る。今後も、先日発表されたプレイステーションストアのオンラインストア開設などの取り組みを通して、ダウンロード数の更なる増加を狙っていくとした。
一方で、コア3事業の中で、一番厳しい話となったのがPlayStation Vitaだ。「競争環境は非常に厳しい」(平井氏)。「ポータブルビジネスは単独のプラットフォームだけではなく、ホームコンソールとの組み合わせによって楽しみが広がっていく」と話した平井氏は、継続して、Vitaプラットフォームへの注力を行うという。
そして今年度の目玉であるPS4については、「専用のゲーム機ならではの体験を提供していく」とし、スマートフォン、タブレットを通したソーシャル連携、Vitaを活用した新しい遊び方を提供していく未来を語った。
コンテンツ販売に関しても、ディスクメディアから、ダウンロードへの移行が進んでいくという。また、昨年買収したGaikaiによるストリーミングゲーム技術を活用した配信を行う予定。
これらコア3事業は、市場環境の変化などから、2014年度には「モバイル 売上高 1兆5000億円(前年度1兆2576億円)、営業利益率 4%」「イメージング 売上高 1兆3000億円(同7304億円)、営業利益率 10%以上」「ゲーム 売上高 1兆円(前年度7071億円)、ゲーム 営業利益率 2%」を経営数値目標として見込んでおり、3事業でエレクトロニクス事業の売上の約65%、営業利益率の約80%を占めるとしている。
テレビ事業は商品力強化による付加価値アップを狙い、X-Reality Proエンジン、Triluminous Displayなどを活用していく。昨年の日本市場では、46インチ以上の大型液晶テレビで、出荷台数は落ち込んだものの、金額ベースでの構成比が16%から36%と大きく伸びた。また、テレビの販売単価も業界平均に比べ、5万円以上高くなったという。
また、4月に設立したソニー・オリンパスメディカルソリューションズなどのライフエレクトロニクス事業や医療用キーデバイスの事業強化についても触れ、ソニーグループの資産を生かした更なる新規事業創出を行い、2020年にこれらの新規事業領域で売上高2000億円規模を目指すとしている。
"強いソニー"復活の鍵とは?
最後に平井氏は「お客様の感情を揺さぶるような、世界に先駆けた新しい商品やサービスを投入することが、ソニーの真の復活に繋がる」と語り、ソニーが創業時の言葉である「自由闊達にして愉快なる理想工場」を目指すことに変わりないことを強調した。
「エレクトロニクス事業に未来はあるし、ソニーにはその中で存在価値を示す。それがソニーのDNAであり、私が行うべき使命だと思う」と平井氏。新しい市場を創造するためにリスクを取ることをいとわないことも強く述べた。"イノベーティブな商品"を作ることは、制約や固定概念から「お客様を解放する」ものになると言い、本社直轄の組織を設置して開発を行っているとし、説明を締めくくった。
質疑応答では、厳しい質問が相次いだ。米投資会社 サードポイントのエンタテインメント部門の分社化提案についてどう対応するのか?という問いに「正確にはエンタテインメント部門の株式、15~20%をIPOすべきとの提案。エンタテインメントもソニーの重要な中核事業であり、取締役会で議論を行った上で回答を行う」(平井氏)とした。
また、役員の責任の取り方が甘いのではないか?という問いには「エレクトロニクス事業の黒字化未達成により、役員は例外なくボーナスの全額返上を行った。ベースのサラリーもカットしたように、トップマネジメントが見える形で責任を取っていくようにした」と話した。
ゲーム事業について、2014年度目標で営業利益率を2%と下方修正したことについて「PlayStation Vitaの立ち上がりが想定を下回ったことによる販促費のかさみに加え、PS4を垂直立ち上げで推進していくため、コストがかさむ」と言い、コンソールゲーム機市場の縮小についても「モバイルとの連携などのハブとして存在意義がある」とし、PS4事業への意欲を垣間見せた。
また、"イノベーティブな商品"はコア事業から出てくるのか?という質問には「その可能性が高いと思う。ただ、それ以外の領域と重なるからといって、そのプロジェクトを止めるということはしない」と述べた。
最後に、6月26日に正式就任予定の社外取締役人事については「マクドナルドの原田社長は、お客様との関わり合いやブランド管理について知見を持っている。伊藤 穣一 MITメディアラボ所長については、世界中のイノベイティブなものとの関わり合いから、エレクトロニクスの飛躍に貢献してもらえる」と語った。