Microsoftは1975年の設立以来、主にソフトウェアの開発や販売を手がける企業として成長してきた。その一方でマウスやキーボードなどのハードウェアにも着手し、9万人以上もの従業員数を抱える企業にまで成長。サーバーOSやコンシューマー向けゲーム機器などにも手を広げ、IT業界屈指の存在として知られているのは改めて述べるまでもない。

だが、IDCが4月10日に発表した情報によれば、2013年1~3月期のコンピューター総出荷台数は7,630万台。前年同期より13.9%減少した。2012年秋に登場したWindows 8が起爆剤とならなかっただけではなく、ここ数年におけるタブレット型コンピュータの出荷台数増加が関係していることは明白である。Microsoftは大きく舵を切る発表をした。

2013年5月23日。MicrosoftのCEO(最高経営責任者)であるSteve Ballmer(スティーブ・バルマー)氏は日本に訪れ、同社のデバイスとサービスにおける今後の展開、そして日本市場に対するクラウド事業の強化について講演を行った。Ballmer氏は「Windows 8.1はWindows 8で始めた旅の続きである」と、今年後半にWindowsストア経由で無償提供することを紹介しつつ、日本では未展開のWindows Phone 8にも触れた。

同氏は「日本国内へ展開するための努力を続けているが、市場投入時はスマートフォンの刷新を図りたい」と述べつつ、今後の展望を「Windows Phoneなら、一人一人がユニークかつパーソナルな経験を享受できる。そしてデスクトップコンピューターからタブレット、スマートフォンと各種デバイスを手にすることで、ユーザーは同じコミュニケーションやサービスを受けられる」と語っている。

この他にも法人ユーザーのデバイス環境や、クラウドコンピューティングの今後に触れると同時に、Windows Azureに対する国内ビジネス強化に向けて日本リージョンの開設計画にも言及した。Windows Azureを核とした展開を行いつつ、「Cloud OS」というコンセプトでクラウドプラットフォームを目指すというものだが、このあたりは本レポートでは割愛する。

Ballmer氏は、ソフトウェアの価値を認めつつ、現在のあり方についても言及した。「従来はDVDメディアなどに保存し、販売されてきたソフトウェアだが、現在はクラウド上のデータセンターから配信されるのが現状だ。そのためハードウェアとの統合がポイントになる」と壇上で述べた。つまり、冒頭で述べたコンピューターの総出荷台数減少は、Microsoftに対しても大きなダメージを与えていたのだろう。

図1 MicrosoftのCEO(最高経営責任者)であるSteve Ballmer(スティーブ・バルマー)氏

日本マイクロソフトの代表執行役社長である樋口泰行氏が、質問者となって行われた質疑応答でBallmer氏は、表題にある「デバイス&サービスの企業」の定義として、「ソフトウェアやWindows OSを開発し、OEMメーカーに引き継ぐ時代ではない」と前置きしつつ、「独自のハードウェアを開発し、積極的に参入していく」「OEMメーカーと協力し合い、次世代のデバイスを作り上げていく」と"デバイス"の意味を説明。もう一方の"サービス"は、プライベートクラウドやパブリッククラウドの提供など、Cloud OSというコンセプトに基づく展開を意味するようだ。

図02 「デバイス&サービスの企業」の概要を説明するBallmer氏と日本マイクロソフト代表執行役社長 樋口泰行氏

今回の発表会が案内されたとき、電子メールには「当社の目指す『デバイス&サービスカンパニー』の方向性」という一文があった。筆者は新しいデバイスの開発に着手する旨を発表するのかと思っていたが、そんな単純な話ではない。創業38年目にして、"OSやソフトウェアを提供する企業ではない"と、自社の方向性を大きく変える重要な講演だったのだ。

近年のMicrosoftはXboxシリーズやSurfaceシリーズなど、自社製ハードウェアの開発・販売を行っている。その一方でWindows Azureのようなクラウドプラットフォームを用意し、ソフトウェア開発および実行環境のプラットフォームとなるPaaS(Platform as a Service:パース)の展開を強化しつつある。Microsoftが「デバイス&サービスの企業」を目指すのも自然の流れなのだろう。

改めて述べるまでもなく、現在はソフトウェアの形態が変わると同時にコンピューターのあり方も変わりつつある過渡期だ。同氏の言葉を借りれば「ハードウェアデバイスは変革の時代へ突入した」のである。Microsoftの方針転換は、我々のコンピューターデバイスを伴うライフスタイルにも大きな影響を与えそうだ。

阿久津良和(Cactus)