宮城県の田代島、瀬戸内海に浮かぶ佐柳島、福岡県の相島など、全国にはたくさんの「猫の島」があります。集団で暮らす島猫たちの写真を見るたび、ほのぼのとした気持ちになります。しかし、なぜ島には猫が多いのでしょう? 島民との関係は良好なのでしょうか? 特に津波被害を受けた、田代島の猫たちのその後は気になるところ。
そこで、ブログ「せかニャ!」で島の猫たちを紹介している「しぐ」さんに聞いてみました。
島猫のご先祖は、備蓄食糧をネズミから守る働き者
――これまでどんな猫の島に撮影に行かれたのでしょうか?
「猫の島に撮影に行ったというより、島の猫を撮ってきました。2005年くらいから家猫でない、外で暮らす猫の写真を撮り始めまして、島でいうなら宮城県の田代島、網地島、沖縄の石垣島、竹富島などに出かけました」
――島の猫の魅力を教えてください
「島の猫は大概人に慣れているので、近い距離から写真を撮れる。それが一番の魅力ですね。車の往来も少なく、寝そべって長時間カメラを構えていても島の人に何も言われません。そんなおおらかな環境がいいんです。
時間がゆったりと流れる中で、猫たちもゆったり暮らしています。そういう場所では大抵人もゆったりしていて、親切な人が多い。猫たちが住みやすい場所は、人も住みやすいのだと思います。自然が多いので、都会ではなかなか見られない猫の野性的な一面を見られることも魅力ですね」
――猫の島ってどうして誕生したんでしょうね?
「島の猫たちは、昔、備蓄用の穀物などをネズミから守るために連れて来られた猫の末えいである場合が多いと聞きます。今やお役御免となった末えいたちは、一部は自然の中に帰っていきましたが、基本的には人のそばで生きている。
島の人からすれば、猫がいる生活が当たり前。島ですから漁業を営む人が多く、傷物の魚を分け与えることが当然のことなんだと思います。猫のことを”大漁を呼ぶ”として神格化している島もあります」
津波被害の田代島の猫たちも漁業の再開とともに元気に
――猫の島ができる条件とは何でしょうか?
「猫の食べ物がたくさんあること、人が猫がいることを許容していること、それが猫の島ができる条件だと思います。
あたたかな気候も大切かもしれません。猫はもともと砂漠の生き物なので、寒いと生存率が低くなると思います。その是非は置くとして、不妊手術をしないため増えていくという現実もありますね」
――猫を観光の目玉としている島もありますよね。
「猫の駅長で観光に貢献している成功例もあるように、猫には需要があるんですね。世界的に名を知られた猫の島には、海外からも訪れる人がいるほどです。個人的には、猫による島起こしは大いにアリだと思っています。
ただし、安易にエサをあげるのはやめていただきたいです。慣れないエサでアレルギーを起こし、元気だった猫が死んでしまった例もあります。エサのばらまきはカラスを呼び、カラスが子猫をさらうといった事件も起きる。また、小さな子供に追いまわされて、ストレスで人間恐怖症になる猫もいます。
"猫と触れ合う場所"ではなく、"猫がゆったり過ごす雰囲気を楽しむ空間"として、島もルールを作ったり、管理をしっかりして誘客を図ってほしいですね。観光に訪れる方もそういった認識を持ってほしいと願います」
――震災と津波被害を受けた田代島の猫たちはどうなりましたか?
「震災当日は地震を察知して山に逃げた猫もいましたが、やはり犠牲は少なくなかったようです。震災後は、瓦れきの中に暮らす猫たちに、漁に出られない島の人がキャットフードをあげたりして命をつないだようです。
そんな猫たちから新しい命も生まれ、島の漁業の再開とともにだんだんとにぎわいを取り戻しました。ただ、顔ぶれは世代交代で新しくなりつつあるようです。外国在住の獣医さんが定期的に訪れて、島の猫の健康診断や薬の投与などをしてくれてもいます」
――猫の島の未来とは?
「狭い島では近親交配が繰り返され、血が濃くなることにより寿命が短い子も多いんです。新しい血が必要とも一部で言われています。それから離島はどこも高齢化が進んでおり、平均年齢70歳という限界集落も少なくありません。
住む人がいなくなれば猫たちも生きていけませんから、若い住人をいかに確保するかという島自体の課題がまずはありますね。当事者でない私たちにはどうすることもできず、無力感を覚えることもあります」
ブログ「せかニャ!」
(OFFICE-SANGA 日下部商店)