黄金に輝く癒やしの国・タイ |
日本は合理的な先進国中の先進国。時刻表通りに走る電車、タイムカードとマニュアルで管理される職場、清潔な街。でも、ときどきちょっとだけ、はみだしてみたくなる日も。そこで唐突ではありますが、タイ式サラリーマン、その名も「タイリーマン」になってみませんか?
ゆるりと暮らすためのヒントについて、ほほえみの国・タイの大らかなスピリットに包まれて暮らす、バンコク在住のYさん(28歳男性)に聞いてみました。Yさんはタイに語学留学後、そのままバンコクで就職したそうです。
タイ人は日本人と似ている?
――Yさんはタイに移住して何年目ですか?
「3年くらいですかね。日本でサラリーマンをしていたんですけど、脱サラしてタイに来ました。今はタイの小さい会社に就職して、タイ人と一緒に働いています」
――彼らって、やっぱり日本人と随分違いますか?
「いえ、それが思ったよりも勤勉です。バンコクは東南アジアの中でも豊かで進んだ街。その街を支えるビジネスマンたちですから、普通の東南アジア人のイメージよりもきちんとしていますよ」
――あら、ちょっとイメージと違いますね。じゃあ、かなり国際人とか。
「いやいやこれが、日本同様、あまり英語が通じないですし……。本当に日本と共通点は多いんですよ。
まず、面と向かって議論をふっかけるようなことをしません。直接の言い合いを避けて、大切なことは裏でやりとりし、こっそり解決をつけようとします。ケンカも嫌いで、険悪になりそうになるとあやふやな表情でごまかします。
仕事のやりとりで"善処します"や"努力します"といわれたときは、何もしてくれないと思った方がいいですね」
マイペンライは魔法の言葉?
――本当に日本人に似ていますね。
「ただ、やっぱり根底に流れるのが"マイペンライ精神"。マイペンライは日本語にすると"気にしません"とか"気にしなくていいですよ"になるんですけど、もっと深い感じですね。
自分が相手に悪いことをしてしまったときもマイペンライ。つらいことがあってもマイペンライ。何か、不思議な呪文みたいです。
例えば約束の時間に遅れそうになったとします。彼らは本当に時間を守らないんですが、遅刻しても"マイペンライ"。遅刻された方も"マイペンライ"なんです」
――自分も他者も許し合う感じでしょうか?
「この前、日本に帰ったときに、やっぱり日本はちょっと窮屈かな、と感じました。すごくみんな厳しくて、他人のことも自分のことも許していない感じがするんです。他人はともかく(笑)、自分のことはたまには許してあげなよって思うんですけどね。
だから、たまには心の中で"マイペンライ、マイペンライ"って唱えてみてはどうですか? 日本人はみんな、がんばっているじゃないですか。だからときどき、マイペンライで許してあげてもいいと思うんです。
たまにタイ人デーを設けるといいかもしれないですね。タイ料理を食べて、陽気でのんきなタイ人になる日。友達が遅刻しても、恋人に小言を言われても、上司にしかられても、部下がミスしても、何かあればすぐにマイペンライ」
――なるほど。日本人総タイ人化計画もいいですね。
「あ、それはやめた方がいいと思います(笑)。先ほど、勤勉と言いましたが、それは一部のエリート層であったり、あくまでもほかの東南アジアと比べてのこと。やっぱりタイ人は、日本人から見ればいい加減ですから。
最初にタイに来た頃、タクシーに乗ったら、運転手が『ラッキーブッダに連れて行ってやる』って言うんです。怪しいとはわかっていても、面白そうだから行ってもらいました。到着したのは建設中の寺院。『どこがラッキーブッダだよ』って思いました。
翌年訪れたときも、別の運転手に同じことを言われて。また好奇心で行ってもらったら、別の小さな寺院に到着。何だこれ、って運転手に怒ったら、マイペンライと言われました。お前が言うなって感じですよね(笑)。
あと、意外に自慢好きで疲れます。あまり謙虚さを持ち合わせていないというか。ちょっと小金を持つとすぐにいいものを買っちゃうんですけど、愛車のBMWを延々自慢されたときは、かなり疲れました。空気をあまり読まないですね。
日本で『鈍感力』ってはやりましたけど、まさに彼らこそ鈍感力の持ち主では? と思うときもあります」
――いつも空気を読みあってぴりぴりしている日本人からしてみると、その空気の読まなさも、案外いいかもなんて思っちゃいます(笑)。
「日本人とちょっと似ていて、全く正反対なのがタイ人です。だから日本人らしさを損なわず、それでいて全然正反対のタイ人らしい大らかさをときどき真似するのはたやすいかもしれません。ただ、あくまでもときどきで(笑)」
ふだんは日本人として暮らしつつ、日常に疲れたときにはタイリーマンでいくのはいかがでしょうか? ただし、会社の仲間に迷惑をかけない程度に。
(OFFICE-SANGA 平野智美)