最近は、町を散歩する犬たちのしつけが行き届いているように感じます。一昔前のように犬同士でケンカをしたり、人にほえかかったりする光景をあまり見かけません。
そこで今回は、ドッグトレーナーの田口美穂さんに犬のしつけ方を教えてもらいました。
体罰は厳禁、叱るよりほめることが大切
――個人的なことですが、先日福島県で半分野生化した牛のファミリーに出くわし威嚇されました。ドッグトレーナーの方なら野生化した動物への対処法も分かりますか?
「それは無理ですね。ドッグトレーナーとは、人と犬とが仲良く共生できるように家庭犬のしつけを行う仕事。野生動物と犬とではまったく違います」
――家庭犬とおっしゃいましたが、警察犬や盲導犬、介助犬などの訓練はなさらないのでしょうか?
「警察犬は警察犬訓練士、盲導犬は盲導犬訓練士と、特殊な仕事をする作業犬の訓練はそれぞれ専門の訓練士が担当します。私たちドッグトレーナーは家庭犬が対象で、人間と一緒に暮らすためのルールやマナーを教えていく仕事ですね」
――トイレとか、人をかまないといったことでしょうか?
「そうです。ほかに、むやみにほえない、攻撃的にならない、お留守番できるようにするなど、犬が思春期を迎え、自我が目覚める前にルールやマナーを教えこむのが理想です。早ければ早いほどいいですよ」
――犬にも思春期があるのですか?
「もちろんありますよ。大型犬と小型犬では成長の早さは多少違いますが、おおよそは生後6か月から1歳くらいで犬は思春期を迎えます。人間で言えば中学生・高校生の時期ですね。思春期を迎え自我が芽生えてしまうと柔軟性や適応能力がなくなってきますので、子犬のうちにきちんとしつけをすることが大切なんです。
犬も人間同様に一頭一頭個性があり、性格も違うんですよ。散歩やボール遊びが好きなアウトドア派、家でゆっくり過ごすのが好きなインドア派など、いろいろです。実は、犬とうまくコミュニケーションが取れない犬すらいるんですよ。早くから親兄弟と引き離されて育った犬にその傾向が多くみられます。個性や性格の違いに応じてしつけをしていくことが大切になります」
――人間の世界では、今「体罰」が問題になっていますが、犬の場合はどうなんでしょうか?
「もちろん体罰はしてはいけません。体罰は犬の自己防衛本能を刺激して、人をかむ癖をつけたり攻撃的な性格にしてしまう恐れがあります。叱るよりほめることが大切ですね。ほめる8割、叱る2割程度といったところでしょうか。
叱ることが全く必要でないわけではありませんが、犬は人の言葉や表情で人の気持ちが分かりますから、叱る場合でも、言葉と表情で犬にやってはいけないことを十分に教えることができるんです」
犬が好きであることは当然だが、人間好きであることも大切
――ドッグトレーナーの資格を取ると、どんな仕事に就けるのでしょうか?
「しつけ教室やペットショップのスタッフ、動物病院の看護士さん……ドッグトレーナーの資格を生かせる職場は多いです。土日だけの副業で出張トレーナーをなさる方もいらっしゃいますね。定年後の仕事としても注目されています」
――やはり犬が好きでないとできない仕事なのでしょうか?
「それもありますが、人が好きということも大切だと思います。飼い主さんとのコミュニケーションをとることも、重要な仕事なんです。私どもがトレーニングをしても、家庭での生活で飼い主さんがきちんとしつけを継続しないと、マナーやルールが習慣化されません。
そのことを理解していただけるように、私たちは飼い主さんに説明したりアドバイスをしなければならないのです。人と話をするのが好きということも、案外大切なことなんですよ」
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田口美穂(たぐちみほ)
アニマルプラザ「ドッグトレーナーズカレッジ」インストラクター。ドッグトレーナー、愛玩動物救命士。