日本国内線にピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパンの低コスト航空会社(LCC)が就航した2012年は、“LCC元年”と呼ばれた。しかし、2013年もその勢いは続いている。
うれしい誤算もあった「国内初の本格LCC」、ピーチ
まず、2012年3月1日に日本初の本格的なLCCとして関西~札幌、福岡線で運航をスタートを切ったピーチは、2012年の11月時点で早々に総搭乗客100万人を突破。当初の計画より約1カ月も早い大台への到達だった。その時点で関西~札幌、福岡、長崎、鹿児島、那覇の国内5路線、関西~ソウル、台北、香港の国際3路線、合計で週252便を運航するまでに急成長。「就航当初に想定していた若い女性層よりも熟年層に人気が出て、台湾からの乗客が大きく増えるなどのうれしい誤算もあった」(同社)。そして、2013年5月7日には総搭乗客数200万人を数えた。
ピーチのベース(拠点空港)である関西空港(以下、関空)の動きも迅速だった。2012年10月に沖縄(那覇)に続いて、国内で2つ目となる“LCCターミナル”をオープン。このターミナルは、正式には第2ターミナルビルという名称だが、簡素な構造で必要最低限の施設しかないなど、実質的にはLCC向けのターミナルと言える。関空は「航空会社の離発着料の引き下げを検討するとともに、3つ目のターミナル建設も検討中」(新関西国際空港)であり、今後もLCCが就航しやすい体制を充実させる計画だ。
ピーチは4月に関空~仙台を就航し、6月14日には関西~石垣を、9月13日には関西~釜山を新規就航する予定で、さらには関空に加え那覇を第2のベースにする計画も発表。9月13日には那覇~石垣を開設する予定だ。
手厚いサービスで乗客の心をつかむ、ジェットスター・ジャパン
2012年7月に就航したジェットスター・ジャパンは、全国区で路線を展開している。2012年7月3日に成田~札幌、福岡線で運航を開始し、その後、成田~関西、那覇、関西~札幌、福岡、那覇、更に2013年3月31日からは成田~大分に加え、名古屋~札幌、福岡で中部空港からの便もスタート。5月31日からは成田~鹿児島、名古屋~鹿児島、6月11日からは成田~松山を開設予定で、夏頃には名古屋~那覇の就航も計画している。
急速な路線の拡大も手伝って、2013年3月22日にはピーチに次いで搭乗者の総数が100万人の大台に乗った。
ただし、ジェットスター・ジャパンの戦略は異質だ。同じグループのジェットスター航空が2007年3月に関空に乗り入れており、国内線にジェットスター・ジャパンが就航した際、一定の知名度はあった。しかしそれでも、ジェットスター・ジャパンは国内線を就航するに当たって乗客サービスを徹底した。欠航便が出ると夕食代(3,500円)、宿泊代(1万2,000円)、自社クーポン(8,000円)などを進呈するなど、手厚いサービスを実施。就航当時は欠航して乗れなくなった客をJALに振り替えた。
関空のカウンター。ジェットスター・ジャパンの場合、どの空港でもメインターミナルにカウンターがあり使い勝手が良い |
ジェットスター本社が入るビル(メルボルン)。自社ビルではなく、一部のフロアを使うことでコストを節約 |
ここまでの手厚いサービスはレガシーキャリア(大手航空会社)でも珍しいが、LCCではほとんど聞かない。ジェットスター・ジャパンは「3年は赤字覚悟で乗客の獲得と認知度の浸透に力を入れている」(関係者)。日本の消費者はまだLCCに対する認知度が高くなく、欠航したら何らかのサービスが受けられるという認識がある。JALとの共同運航やマイレージサービスでの提携もスタートし、乗客はより集まりやすくなった。日本というマーケットに即した事業展開をしているのが奏功していると言える。
「アジアの雄」は巻き返せるか、エアアジア・ジャパン
逆に、海外で成功したビジネスモデルを変えずに、やや苦戦しているのがエアアジア・ジャパンだ。ジェットスター・ジャパンより1カ月遅い2012年8月1日に、成田~札幌、福岡線で国内線を就航。その後、成田~那覇、国際線の成田~ソウル、釜山、また2013年2月27日からは名古屋~ソウル、3月31日からは名古屋~福岡、札幌線を就航するなど路線は増えているが、ピーチに比べると搭乗率が総じて低い。
初代社長の岩片和行氏は就航わずか4カ月で代表権のない会長職となり、2013年2月には出向元である全日空に戻った。氏が現場を離れた一因は従業員との良好な関係を築けなかった点にあるが、一方で「本社が日本市場に合わせたサービスをなかなか理解してくれなかった」(航空関係者)のも理由のひとつだろう。
機内食は工夫が見られ味も良く、キャビンアテンダントはサービス精神旺盛で写真撮影にも気軽に応じてくれるなど、同社らしいサービスは評価できる。ただ、一方で不評を買うサービスもあった。例えばウェブでチェックインした場合、自分で搭乗券をプリントするのを忘れると、空港で手数料1,000円を徴収された。
しかし、少しずつ日本に合ったサービスも導入しており、今では搭乗券のプリント代は徴収されない。「国内線よりも国際線に力を入れる」(同社)とも言うが、円安で外国からの乗客が増えるなど明るい要素はある。今度、どこまで巻き返すのか注目したい。
今秋就航予定でサプライズに期待、春秋航空日本
今秋にはまたひとつ、新しいLCCが就航する計画がある。中国・上海本社の春秋航空が立ち上げた日本法人の「春秋航空日本」である。首都圏の空港を拠点に2013年の秋に国内線を、2014年には国際線を就航する計画。会長の王氏は日本の旅行事情にも通じており、就航路線や価格のサプライズにも期待したい。
サービス充実、行き先豊富な中距離LCCが増える
一方、国際線では新しい潮流が生まれている。中距離LCCの台頭だ。従来、LCCは1時間~4時間の短距離便が中心で、それ以上時間のかかる中・長距離便ではなかなか成功しないと言われてきた。ただ、日本や韓国の東アジアの経済都市とシンガポールやマレーシア、タイ、インドネシアなどを結ぶ区間は直行で7時間前後の中距離便であり、この区間に就航するLCCが増えているのだ。
エアアジアグループのエアアジアXは、2010年12月に羽田~クアラルンプール線を就航し、その後、関西~クアラルンプール線も就航。また、シンガポール航空の子会社であるスクートは、2012年10月より成田~シンガポール(台北経由)線を就航し、関空乗り入れも検討中だ。
2007年から日本(関空)に就航しているジェットスター航空は現在、自社運航便だけで成田~ブリスベン、ケアンズ、関西~マニラ、シンガポール(台北経由)、関西~ケアンズ、ブリスベンと複数の路線を運航中。エアアジアXなら、クアラルンプールから先の東南アジア各地、スクートならシンガポールから先の東南アジア各地、ジェットスターでも東南アジアやオセアニア各地へのアクセスが可能で、乗り継ぎ便を利用すれば行き先は更に広がる。
中距離路線は、「エンターテインメントや機内食といったサービスの工夫余地が広く、日本人向けのコンテンツやメニューを増やしていく」(スクート)そうであり、有料とはいえ、もっと多彩なサービスを楽しめるようになりそうだ。
日本はようやくLCC時代に突入したばかり。まだまだ新しいLCC便が就航し、もっと多くの都市に安く行けるようになりそうである。