"ハリウッド俳優 アーノルド・シュワルツェネッガー"が映画界に帰ってくる。映画『ターミネーター』シリーズなどで人気を不動のものにしながらも、2003年に米カリフォルニア州知事に就任し、映画界をほぼ引退状態であったA・シュワルツェネッガー。そんな彼が10年振りとなる主演作『ラストスタンド』を引っさげ、映画界に帰ってきた。久々に主演を務めた彼に同作に対する想いや、今の映画界への想いを聞いた。

アーノルド・シュワルツェネッガー
1947年生まれ、オーストリア出身。史上最年少でボディビルのミスター・ユニバースのタイトルを獲得。1968年渡米後も、5度同賞を獲得するなど、ボディービル界にその名を知らしめる。映画『アーノルド・シュワルツェネッガーのSF超人ヘラクレス』(1970年)で映画デビュー。『ターミネーター』(1984年)の大ヒットにより、一気にトップスターへ。2003年には米カリフォルニア州知事に就任。環境問題に注力する。映画『ラストスタンド』が主演復帰1弾となる

――10年ぶりの主演作公開おめでとうございます。久しぶりに主役を務めることへの恐怖心などはありませんでしたか?

役者復帰の第一歩として、『エクスペンダブルズ』にカメオ出演したんだ。短い出演場面だったけどね。でも、観客はぼくの登場場面で拍手喝采をしてくれた。そのときに、州知事を終えたらハリウッドに戻れると確信を抱いたんだ。『エクスペンダブルズ2』の出演場面でも、再び素晴らしい喝采を得ることができた。だから、久々の主演映画『ラストスタンド』を安心して引き受けることができたんだよ。

――なるほど。では『エクスペンダブルズ』などに出演したことが"ハリウッド俳優 A・シュワルツネッガー"を思い出すキッカケになったと。

そうだね。『エクスペンダブルズ』に出演できたことが、とても幸運だったよ。いきなり3カ月もの間、主役を演じ続けるのではなくて、現場の雰囲気を体験できたからね。『エクスペンダブルズ』の共演者はとても親切で、とくにスタローン(シルヴェスター・スタローン)には感謝している。彼は親しい友人で、政治活動もずっと支援してくれた。もっとも、初期はぜんぜんそんなことはなくて、どっちの筋肉が大きいか、どっちが映画でたくさん人を殺したか、どっちのほうが大きな銃を使ったか、とか張り合ってばかりいた。でも、あるときぼくらは気づいたんだ。どうして、こんな下らないことでケンカばかりしているんだろう、って。仲良くしたほうが、ずっと楽じゃないか、と気づいて、その後は素晴らしい関係を維持している。とにかく『エクスペンダブルズ』シリーズへの出演経験のおかげで、映画ビジネスのリズムに戻ることができた。そして、『ラストスタンド』の撮影でニューメキシコに入り、銃を撃ったり、ハーネスでぶらさがったり、転がったりとしていくうちに、元の感覚を取り戻していったんだ。それに、この作品では共演者にも恵まれた。ジョニー・ノックスビルやジェイミー・アレキサンダーたちとの共演は楽しく、また、お互いが支え合ういい関係を築きあげることができた。だから、自分ひとりで映画をひっぱるのではなく、彼らに頼ることができたんだよ。優秀な監督がメガホンを握ってくれていたしね」

――この10年で何が一番変わりましたか。

10年もたったわけだから、少し利口になったね。知事として経験したことも、演技にプラスの要素をもたらしていると思う。そして映画に出演できる喜びを昔以上に感じているよ。

――今回の役はいままで演じてきた役柄と比較して、とてもソフトな人柄ですね。そんな役だからこそ、クライマックスの激しい戦いは、とても印象的でした。

「ぼくが演じるキャラクターは引退を目前にした男だ。決して若くはないし、自分が誰にも期待されていないことを知っている。FBIも、部下も、彼に期待をしていない。しかし、彼は自分が信じるもののために、立ち上がらざるを得ない。これまでのキャリアで、彼はずっとそうしてきた。ロサンゼルスの麻薬捜査班にいたときもそうだった。当時、銃撃戦で怪我をして、この国境の街にやってきたわけだが、だからといって、自分の主義を変えるわけにはいかない。だから、すべてのエネルギーとスキルを用いて、コルテスたちを阻止しようとするわけなんだ」

元ロス市警の敏腕刑事オーウェンズ(A・シュワルツェネッガー)。心に傷を抱え第一線を退いた彼は国境付近の小さな町の保安官となり、静かな週末を過ごしていた。そこにFBIから一本の電話が。「移送中の凶悪犯・麻薬王のコルテスが逃走し、最新鋭の車を操り時速400キロでメキシコ国境に向かっている。君の町を通過するが、手を出すな」。しかしFBIを振り切り、凶悪犯が目前に迫る。FBIの応援も間に合わず、十分な武器も無い中、オーウェンズは戦闘経験の無い部下と、素人同然の仲間でチームを結成。辺境の町で前代未聞の大決戦が今始まる。
(C)2012 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

――これまで、アクション俳優として確固たる地位を築いてきたシュワルツェネッガーさんですが、現代のアクション映画についてはどういった印象をお持ちですか。

いまのアクションは、『スパイダーマン』や『アイアンマン』や『バットマン』、『スーパーマン』といった、VFX映画が主流で、20年前にはとても不可能だった素晴らしい映像が生み出されているね。こういう映画は素晴らしいと思う。でも、同時に観客は伝統的なアクション映画も求めていると思うんだ。CGではなく、実際に役者がアクションをこなす映画をね。

――やはり生身のアクションが好きだと。

「もちろん! 殴られたり、壁に叩き付けられたりね(笑)。この映画でも、建物から落下するシーンでは、実際に落下しているんだよ。あれはCGなんかじゃなくて、ぼくともうひとりの男が実際に落ちているんだ。ファイトシーンの撮影には怪我がつきもの。肩やひじ、ひざ、とか。でも、そんなときは自分にこう言い聞かせることにしている。『痛みは一時的だ。だが、フィルムに映ったものは永遠だ』とね」

――若手のアクション俳優で共演したい人はいますか?

共演したい俳優はたくさんいるけど、それはシナリオ次第だから具体的な名前は控えさせてもらうよ。

――ボディビルディング、アクション俳優、政治家と三つのジャンルを制覇したいま、次の目標はなんですか?

「たしかに、ぼくは3つのキャリアで成功を収めさせてもらった。いまは、キャリア同士をうまく掛けあわせて、相乗効果を生み出したいと思っているよ。たとえば、昨年、USCシュワルツェネッガー研究所を設立した。国家政策と外交政策を対象にしたシンクタンクで、これは映画スターしての立場を利用した政治活動なんだ。同研究所の資金集めは、スターとしての知名度を使えば容易に行える。さらに、外国で講演会を行うときも、ぼくが出席するとなれば、多くの観客を集めることができる。どんなに大きな会場でも必ずチケットが売り切れになるはずだ。こんな風に、ひとつのキャリアを利用して、別のキャリアを手助けする。シナジー効果を生み出すことが今後の課題だね」

――今後、映画の監督業などには興味がありますか?

もちろん、ものすごく面白いシナリオなどがあればやりたいという思いはあるよ。でも、自ら何かを計画してやってみたいというところまでは考えていないけどね。

映画『ラストスタンド』は、4月27日より全国公開。