福井県東部に位置する大野市を語る上で、「ホルモン」は外せない。市内にはホルモン焼きを扱う店が30軒以上あり、「とんちゃん」と呼ばれるみそダレのホルモン焼きが定着している。3年前からは、毎年夏にホルモン日本一を決めるイベントが行われ、「ホルモンの町」として知られるようになっている。
「名水のまち」大野が生んだ郷土の味
牛や豚の内臓「ホルモン」は、地域によって様々な味つけや調理法があり、その味は千差万別だ。ご当地ホルモンと言えば、神奈川県の「厚木シロコロ・ホルモン」、宮城県の「気仙沼ホルモン」などが有名だが、福井県大野のホルモン「とんちゃん」も負けてはいない。
まずは「とんちゃん」の歴史を紐(ひも)解いていこう。昭和初期、大野には日本有数の大規模な鉱山があり、たくさんの労働者が働いていた。彼らのまかないとしてよく出されていたのが、安くておいしく手軽に食べられるホルモン料理だった。
一方で、大野は「名水のまち」としても知られている。1,000メートルを超す山々に囲まれた盆地には4つの川があり、伏流水が湧き水となって流れ出ている。美しく澄んだ湧き水は、夏は冷たく冬は温かく、大野の貴重な水源になっている。
そんな大野では、名水を使ったしょう油やみそ、日本酒などの製造が盛んに行われてきた。ホルモンの味つけには、地元のおいしいみそが使われ、みそダレに漬けこんだホルモン「とんちゃん」が定着することになったのだ。
個性豊かなホルモン店 食べ歩きして楽しみたい
市内中心部には、とんちゃんを扱う焼き肉店、精肉店、居酒屋などが30近く軒を連ね、個性豊かなホルモン料理を提供している。
例えば、越前大野城のふもとにある焼肉店「亀山園」は、食べやすい大きさに切られたジューシーなとんちゃんが人気。店によって焼き方はいろいろだが、こちらは卓上ガスコンロで焼くスタイルを取っている。焼き始めるとモクモクと白い煙が立ちのぼるが、「これこそホルモン好きの食欲を刺激する」と、お気に入りの店に挙げる人が多いという。
また、創業50年を誇る老舗の焼き肉・ホルモン店「六間星山(ろっけんほしやま)大野本店」は、地元大野のみそダレをつけて網で香ばしく焼き上げたとんちゃんが絶品。なかでも和牛小腸100%の「特上ホルモン」は、脂の甘さと柔らかさがたまらない。「奥深い味がさすが老舗」「とんちゃんと言えば六間星山」と市民に愛されている。
大野では、家庭でホルモン料理を楽しむ人も多く、精肉店でも各種ホルモンを扱っている。例えば「星山商店」は、昭和初期からおいしいホルモンを提供し続けている老舗。試行錯誤の末、作りだした自然素材100%の秘伝のみそダレに漬けた、肉厚のとんちゃんが大人気。この味を求めて、地元はもとより県外から買いに来る人も多いそうだ。
「星山商店」のホルモン。お土産にもオススメ(白ホルモン味付:100g 160円、上ホルモン味付:100g 179円、並ホルモン味付:500g 693円の3種類の用意あり)。キャベツやモヤシと一緒に炒めてもGOOD! |
この他にも、おいしいとんちゃん作りに日々励んでいる店がたくさんある。特に味つけはどの店もこだわっているので、是非いろいろなお店のとんちゃんを味わってみてほしい。
ちなみに、大野は越前大野城下に広がる城下町。「北陸の小京都」と呼ばれ、基盤の目のように町が広がっている。中でも「七間(しちけん)通り」は、古くからの老舗が並ぶ風情あふれる商店街。ここでは400年以上続く朝市が毎日開かれ、地元の農作物などが販売されている。市内散策のあとにとんちゃんを食べれば、大野の町がめいっぱい楽しめる。
全国のホルモン店が大集結「越前おおのとんちゃん祭」
このように地元の人たちが愛してやまないとんちゃんのおいしさを広げていきたいと、2010年から「越前おおのとんちゃん祭」が始まった。これは、全国のホルモン店が大野に集結しフードバトルを展開し、来場者の箸による投票でホルモン日本一を決めるというもの。全国でも珍しいホルモンのイベントだ。
例年、夏真っ盛りの時期に行われる。ホルモンの肉々しいにおいと煙がたちこめる中、白熱した戦いが繰り広げられ、異様な盛りあがりを見せるという。2012年は地元・福井のほかに、東京や名古屋、京都など全国のホルモン店25軒が出店し、2万人が集まった。
そして、2013年は8月10日、11日に、各地から人気のホルモン店が自慢の味を持ってバトルを繰り広げる。ホルモン好きの人は、是非とも足を運んでいただきたい。
大野では、人が集まるところには必ず「とんちゃん」が登場するという。お盆やお正月もとんちゃんでもてなすのが定番。帰省した人はとんちゃんを食べると、「故郷に帰ってきた」と実感するそうだ。それだけとんちゃんが地元の味として愛されている証拠。とんちゃんは大野の自慢であり故郷の味であり、市民にとって欠かせないものなのだ。