名古屋コーチン(愛知)、比内地鶏(秋田)、そして薩摩地鶏(鹿児島)。これらは日本三大地鶏と称される有名ブランドだ。この「地鶏三銃士」をヒエラルキーの頂点として、いまや全国で様々な地鶏がしのぎを削っている。近年、チキン通の舌を唸(うな)らせる新たな地鶏が脚光を浴びている。そんな大注目の地鶏が、熊本県の「天草大王」だ。
背丈90センチにもなる国内最大級の地鶏
全国区ではまだ無名な「天草大王」。ニワトリの中では日本最大級を誇り、大きさは最大でオスが背丈90センチ、体重は約7キロにも達するのだという。まさに「大王」の名にふさわしい堂々たる体躯(たいく)だが、実はこの天草大王、一度は絶滅し、平成の世に復活したリバイバル種なのである。
元々は明治の中頃、中国北部原産の狼山(ランシャン)種が熊本県天草地方に渡り、地元で飼われていたシャモやコーチンと交配して生まれた肉用地鶏だ。天草地方でのみ飼育されていたことから、このネーミングとなったそうだ。
肉質が柔らかく、肉量も多かったので、博多名物の水炊きなどに重宝された。しかし大型なために大量の飼料が必要で、また採卵率も低く、加えて戦争に突入したため水炊きの需要が落ち込むなど悪条件が重なった。結局、天草大王は戦時中に絶滅してしまった。
それから約50年。地鶏ブームの追い風を受けて、「幻の地鶏」天草大王の復活プロジェクトが持ち上がったのは1992年のことだという。熊本県農業研究センターが残された文献や写真、油絵などを手掛かりに作業を開始した。元祖・天草大王と同じくランシャン種をベースにし大シャモや熊本コーチンを掛け合わせ、約10年かけて復活に成功したのだ。
飼育日数はブロイラーの倍以上
さて、平成の世に復活した天草大王もまた、上質な味を求めて大切に飼育されている。熊本県養鶏農業協同組合によると、飼育日数はブロイラーの倍以上に当たる120日。おからやニンジン、ヨモギ、木酢液など、こだわり抜いたエサを与えられて育てられているという。
同組合以外にも天草大王の生産農家はあり、それぞれがこだわりの飼育法で育てている。こうして丹念に育てられた天草大王の肉はプリプリと弾力満点。それでいて柔らかい。鶏肉ならではの食べやすい味だが、豊かなコクも併せ持っている。値は張るがそれに見合うだけの手間がかかっているのだ。
現在、天草大王はネット通販などでも取り寄せることができるが、やはりここはひとつ、地元・熊本で味わっていただきたい。
オススメの店は創業明治14年(1881年)の「すき焼 加茂川」。すき焼と言えば牛をイメージするかもしれないが、このお店では「天草大王すき焼」や「天草大王水炊き」(各2,500円)を味わうことができる。すき焼の隠し味には、天草大王などでダシをとった秘伝のスープが! 贅沢(ぜいたく)このうえない一品だ。
今や天草地方だけでなく、熊本県全域の様々な店で味わうことのできる「天草大王」。熊本市内へ立ち寄った時には、是非一度この巨大地鶏のやわらかさを堪能していただきたい。
●Information
すき焼 加茂川
熊本県熊本市中央区上通町2-6