「マタ旅」という言葉をご存じだろうか。マタニティ旅行の略で、妊婦が旅行に行くことを意味する。妊娠5カ月目からのいわゆる「安定期」に入れば、妊婦も旅行を楽しんで大丈夫といった風潮が高まり、国内旅行だけではなく海外旅行を楽しむ非常にアクティブな妊婦も少なくない。

確かに妊娠中は飲酒や喫煙はもちろんのこと、生魚や生肉などの摂取も制限され、またつわりに悩まされるケースも多いことから、旅行で気晴らしをしたいという気持ちも理解はできる。さらには、出産後は乳幼児を連れての旅行となるため、「出産前に行っておかなくちゃ」という妊婦も多いと聞く。

しかし実際のところ、安定期に入れば旅行をしてもいいのだろうか。50万部突破の大ヒットとなった「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」の著者で産婦人科医の宋美玄医師にマタ旅について聞いてみた。

マタニティ旅行、略して「マタ旅」。妊娠中の旅行は果たして安全なのだろうか

「安定期」という言葉の罠

産婦人科女医の宋美玄(そん みひょん)医師。「トラブルがない時期が安定期、というわけではない」と指摘する

「妊婦健診をしていると、『旅行に行ってもいいですか』という質問を受けることがとても多いです」と宋医師。そんなとき、「絶対に行ってはいけない」という指導はしないそうだが、「安定期に入ったら安心して旅行に行ってもいい」という世の中の風潮には疑問を抱くという。

「そもそも、安定期は胎盤が完成し、つわりも落ち着いてくる時期であって、流産などが絶対に起こらないというノーリスクの時期というわけではないのです。例えば、環境の変化で便秘になるという女性は妊婦に限らず多いのですが、旅行中に腹痛が起きたとき、それが便秘で痛いのか、胎児異常での痛みなのか、本人には判断もつかないでしょう。いつもなら何か不安になればかかりつけ医に診てもらうことができても、旅行中はそれができません。その危険性を認識すべきです」。

それらを踏まえた上で旅行をする際は、24時間の救急搬送に対応している病院を宿泊先周辺で見つけておくことだけは忘れないようにしましょう。母子手帳や検査データの携行は"いうまでもなく"レベルのことです。

また、海外旅行については「おすすめしない」とのこと。「長時間のフライトでおなかにはりが出るケースが多く、また海外での医療は非常に高額になることから避けたほうがいいでしょう」と指摘する。

様々な媒体で見かけるようになった「マタ旅特集」だが、そういったブームに踊らされず、安全なマタニティライフを送れるよう正しい知識を持ち合わせてもらいたいものだ。


宋美玄(そん みひょん)医師

産婦人科女医・性科学者
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科を卒業。同年医師免許取得、大阪大学産婦人科入局。2007年川崎医科大学講師就任、2009年イギリス・ロンドン大学病院の胎児超音波部門に留学。
2010年には日本国内の病院にて産婦人科医として従事する傍ら、「女医が教える本当に気持ちいいセックス」を上梓。50万部突破の大ヒットとなる。
2012年には第一子となる女児を出産。現在、フジテレビ「とくダネ!」火曜日レギュラーコメンテーターとしても出演中。
宋美玄オフィシャルサイト

撮影: 竹内洋平