クリーニングを上手に利用するためのQ&Aも4回目。今回のテーマは、「クリーニングに出す前に私たちができること」。クリーニングに対する素朴な疑問に答えていただくのは、前回までに引き続き、全国無料宅配クリーニングサービス「せんたく便」を運営するヨシハラ代表取締役、吉原保氏です。

クリーニングの前に「汚れをふく」「水や石けんでこする」じつは良くない!

大事な衣類に汚れが付いた場合、クリーニングの前に処置をしておきたいと考えがちだけど…(写真はイメージ)

――クリーニングに出す前に、「こうしておくと仕上がりがよりきれいになる、クリーニング屋さんも負担が減る」といったことはあるのでしょうか?

吉原氏 「お気持ちはありがたいのですが……、実際のところ、汚れが付着したら、できるだけそのままの状態で早く出すのが一番です。汚れは付着してから時間が経つと酸化し、シミになっていきます。シミになるとさらに落ちにくくなります、汚れが付いた時点からすでに酸化は始まっているので、なるべく早く、まだ汚れであるうちにクリーニングに出したほうが、より仕上がりの良いものにできます」

――えっ!? 自分で洗うのもダメなんですか?

吉原氏 「そうなんです。たとえば食事中、食べ物を衣服に落として汚れができた場合、『とりあえずふかないと』『化粧室に入って水や石けんでこすって洗ってしまおう』と考える人も多いでしょう。でもダメなんです。繊維や生地は、縦糸と横糸で構成されていて、しかも細かい毛の集まり。こするなどすると、その部分だけ毛が持ち上がってしまったり、跡が残ったりと、衣服にとって良くないことが起きてしまいます。しかも汚れの分子が細かい毛の集まりの奥に入ってしまうので、根本的な解決さえしにくくなります」

――そうなのですね……。でも緊急の場合、たとえば大事な食事会の場面などで衣服を汚してしまい、とりあえず見た目をなんとかしないといけない、というような状況では、どうすればいいのでしょうか?

吉原氏 「応急処置で汚れを取るときには、水でなるべく流し、それでも落ちなければ濡れたタオルでポンポンと叩いてもらうといいですね。強くこすると汚れの分子がより深いところに入ってしまいますから、そうならないためにもまず応急処置を施しておいて、汚れが悪い状態になる前にクリーニングに出すのがベストかと思います。汚れがひどいと、普通にクリーニングしただけでは落ちなくなる可能性も出てきますし、汚れが酸化すると還元作業、いわゆる漂白をしなければいけなくなる場合が出てきます。漂白にはリスクがあるので、漂白せずに済むならしないほうがいいんですよ」

――漂白のリスクとは、具体的にはどのようなことが起きるのでしょう?

吉原氏 「漂白といってもさまざまな種類がありますが、基本的には酸素を用いて色を抜くことをさします。酸化しているものの酸素を抜くことで、色を白くするんです。ちなみに、家庭で使用されるオキシドールや『キッチンハイター』などは酸化した汚れを取るためのもので、かけるとシュワシュワと気泡が出てきますよね。あれと似たようなものが酸素漂白にも使われるんですね。シミはもちろんですが、服の染料・顔料も、『色が付いている』という点では同じ。色の付いたものを白くする作業が漂白ですから、せっかくのお気に入りの衣服も、漂白すれば色が薄れてしまうのは避けがたいんです。だから漂白の必要が生じてしまう前に、衣服はきれいにしたほうがいいでしょう」

なるほど……。どうにかしようと思うあまり、あわてて処置を施そうとするのが、じつは一番良くないことのようです。衣服をきれいに保ちたいなら、「クリーニングのプロの腕を信じて、任せる勇気を持つ」ということも大事なのでしょう。さて、次回は、「衣類がクリーニングされて戻ってきた後の保管方法」について質問してみます!