どうして他人のものが良く見えるのか。食べ物、バッグ、アクセサリーにはじまり、友達の彼氏や彼女、隣の家の旦那さん……などなど。物だけではなく、彼氏や彼女という人に対してもよく見えてしまい、思わず欲しくなるという経験は一度くらいなら誰しもあると思います。中には、人の彼氏や彼女ばかりよく見えてしまい、恋愛はいつも略奪愛という人も。一体どうして、他人のものはよく見えてしまうのでしょうか。そしてそれが、他人の彼氏や彼女だった場合、略奪することでその恋愛はうまくいくのでしょうか。化粧心理学者で、大学では恋愛心理学の授業も担当している平松隆円さんに解説していただきます。
自尊心のために略奪愛
私たちは自分の考え方や言動をすぐれたものと思い、自分の人格を大切にする気持ちである自尊心を維持したり、高めたりするために、誰かと自分を比べることが多いのです。比べる部分は、誰から見ても価値があるとみなされる特徴(例えば、物であれば高価であるとか希少性が高いとか。人物であれば、容姿がいいとか、優しいとか)についてです。その特徴の有無によって、周囲からの自分の評価を判断し、自尊心を変化させていきます。
比較した結果、自分の方が優れていれば問題はないのですが、場合によっては負けていることがありますよね。それこそが、他人のものがよく見える理由なのです。もし、自分にはないもの、自分が持っていないものが誰かにはあるとしたら。普通であれば、比べる対象と距離をとり、比較することをやめることで自尊心の低下を避けようとします。ですが、負けている部分が手に入れられるようなものであれば、それを自分のものにすることで自分の価値を高めようという行動に出てしまう人がいます。物であれば借金をしてでも購入したり、他人の恋人だった場合は略奪したりという行動へとなるのです。
他人のものが良く見えるというのは、「それがあれば自分の価値を高められるのに」という心理に基づいています。つまり、略奪愛は「他人の彼氏や彼女のことが好きだから」というものではなく、「その恋人と付き合えば自分の価値を高めることができるから手に入れたい」ということに過ぎません。いってみれば、新しいデザインのバッグや時計が出ればすぐに買い換えるように、今の恋人より容姿や経済力や性格など、他人がうらやむようなよりよい条件の恋人を目の当たりにすると、すぐ取り替え(略奪)しようとします。
そういう恋愛の仕方では、一般的にいってよい恋愛ができるとは考えられません。ただ、略奪愛をする人たちというのは、恋愛を自分の価値を高めるためというふうに割り切って考えていますので、相手に愛されなくても特に問題がないので、むしろ略奪された側の方が不幸かもしれませんね。
著者プロフィール
平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。国際日本文化研究センター講師や京都大学中核機関研究員などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。よそおいに関する研究で日本文化を解き明かしている。大学では魅力をテーマに恋愛心理学も担当。 NTV『所さんの目がテン! 』、CX『めざましどようび』、NHK『極める 中越典子の京美人学』など番組出演も多数。主著『化粧にみる日本文化』は関西大学入試問題に採用されるなど、研究者以外にも反響を呼んだ。