携帯電話業界の新たな指標として「つながりやすさ」が登場している。今まで、「どれだけエリアが広いか」といった競争はあったが、携帯キャリア各社の人口カバー率が90%を超えると、今度は「どれだけ速度が出るか」といった通信速度の競争に移ってきた。そして最近、新たにソフトバンクが仕掛けきたのが「つながりやすさ」の競争だ。孫正義社長が登壇して説明会を開催し、大々的なテレビCMなどの広告アピールも行っている「つながりやすさNo.1」だが、この「つながりやすさ」について考えてみたい。

ソフトバンクが「つながりやすさNo.1」を宣言した説明会では、「小セル化」「Wi-Fiオフロード」「ダブルLTE」などのキーワードがアピールされた。例えば「ダブルLTE」は、iOS向けの通信に使う周波数帯域を2種類に増やし、単純に言えば1つの基地局に接続できる端末が増やすという方策だ。こうした方策によって、「つながりやすさ」は本当に向上し、その「つながりやすさ」をユーザーは体感できるのだろうか。

実際SNSの反応などを見ると、すべてのユーザーが「つながりやすさ」を実感しているわけではないようで、中には戸惑いを感じている声も複数見られた。そもそもこの「つながりやすさ」とはどういったものなのだろうか? 国内外のモバイルなどに詳しいジャーナリストの松村太郎氏に聞いてみた。

ソフトバンクの「つながりやすさ」の調査では、機械的に発信した通話の着信した割合である「音声接続率」と、アプリからの位置情報送信での接続不可を計測する「パケット接続率」の2つを用い、その結果から「つながりやすさNo.1」をアピールしている。

松村氏は「この調査結果は一つの目安となっていることは事実だと感じています」としながらも、あくまで「目安」であり、つながりやすさは「様々な環境によって異なります」との見解だ。

無線通信は電波なので建物に遮られたり、反射したり、ほかの電波と干渉したりして、理論通りにはエリアをカバーしてくれない。そうなると、「基地局のエリア内のはずなのに電波が届かない」「圏内なのに通信ができない、速度が遅い」という事態が起こりえる。 そして重要なのは、機械的な調査だけでは分からない「ユーザーの実感値」だという。これは、単に「接続できた」「スピードがどれだけ出た」という比較だけではなく、日々の利用で「快適」と感じられるか、ということだ。それが、機械的な調査では表現しきれているわけではないという。調査した瞬間の場所、時間、周囲でイベントがあったか、天候や交通状況はどうか。そうした状況で刻一刻と「つながりやすさ」は変化し、「ユーザーの実感値」も変わってくる。

この「実感値」は、ユーザーが使いたいアプリやサービスによっても異なってくる。例えば動画を見たい人は、動画アプリで停止せずに再生されることが重要だし、SNSに画像を投稿したい人は、アップロードの速度がストレスの有無に直結する。オンラインゲームをする人なら、通信の反応が速いことがポイントになるだろう。

この「実感値」は、機械的な調査では判明しづらい。逆に言うと、調査と実感値が乖離してしまう可能性がある。そこで同氏は、キャリアの情報に加え、実際の利用者やSNSの声を調べ、実際のユーザーの実感値を探る必要があると指摘する。「単に機械的またはキャリアだけの調査だけでなく、快適度をユーザーと一緒に調べ、作っていく取り組みを始めると良いのではないかと思います。ネットワークの良い点、悪い点をユーザーから集め、その声を元に投資をし、ユーザーへフィードバックする。こうしてロイヤリティの高い顧客を増やしていけば、携帯電話のエリアや通信について『自分のネットワーク』という意識が育まれるのではないでしょうか」(松村氏)

(執筆 : 三谷真)