石川県金沢市の郊外にある「湯涌(ゆわく)温泉」。今この山あいの静かな温泉街に多くの人が詰めかけている。その理由は、アニメ「花咲くいろは」の舞台のモデルになっているからだ。3月30日からは劇場版も公開されるとあって、ますます注目度がアップしている。今回は「花咲くいろは」に登場する景色とともに、湯涌温泉の魅力を紹介する。
歴史ある温泉街が青春アニメの舞台に
湯涌温泉は奈良時代に発見され、金沢加賀藩のお殿様や武士が愛用した由緒ある温泉地。無色透明でほのかな塩味がする湯は、大正時代にドイツで行われた万国鉱泉博覧会で良質と認められた。金沢市中心部から車で20分というアクセスのよさもあり、金沢を代表する温泉として知られている。
そんな湯涌温泉をにぎわしているのが、2011年にテレビ放映されたアニメ「花咲くいろは」のファンだ。主人公である東京育ちの女子高生 松前緒花(まつまえおはな)が、石川県にある架空の温泉「湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉街」で仲居としてアルバイトしながら成長する姿を軸に描いた青春物語。この湯乃鷺温泉街のモデルが湯涌温泉なのだ。
実際の街並みや景色が随所に折り込まれているため、「聖地巡礼」と称して湯涌温泉の街めぐりをするファンが急増しているという。一般の温泉客にとっては何げない風景だが、ファンにとってはたまらないスポットが点在している。
例えば、温泉街の入り口近くにある「秀峰閣(しゅうほうかく)」は、登場人物のひとり 和倉結名(わくらゆいな)の自宅モデルになった温泉宿。同じく入り口近くの「松村商店」前は、アニメのエンディングに登場する場所。登場人物と同じようにこの場所を歩くだけで、心躍るというファンも多いという。
「ぼんぼり祭り」には全国からファンが大集結
数ある聖地の中でも、ファンが必ず足を運ぶのが「湯涌稲荷神社」だ。赤い鳥居が印象的なこの神社は、アニメの中で描かれた「ぼんぼり祭り」の舞台。願いごとを書いた「のぞみ札」をかけて参拝すると望みが叶(かな)うといわれ、多くのファンが願かけに訪れる。
このような聖地巡礼の人気を受けて湯涌温泉では、2011年から毎年10月に、アニメの「ぼんぼり祭り」を再現した「湯涌ぼんぼり祭り」を開催している。
「ぼんぼり祭り」は、小さな女の子の神様が神無月(10月)に出雲大社に帰る時の道しるべに、のぞみ札を下げたぼんぼりで送りだすというもの。「湯涌ぼんぼり祭り」では温泉街にほんぼりを飾り、湯涌稲荷神社に集まったのぞみ札を近くの湖で焚(た)き上げている。
第1回は5,000人、第2回は7,000人が集まり、湯涌温泉に1年で最も多くの人が集まる1日となっている。今年も神無月の10月に行われる予定。昨年は「花咲くいろは」キャストによるトークショーが行われたことも話題となった。今年はどんなイベントが開催されるのか楽しみだ。
昔ながらの商店でグッズをチェックするのも楽しみ
聖地巡礼の締めにファンが訪れるのは、温泉街入り口にある「喜船商店」だ。ここには「花咲くいろは」グッズが所狭しと置かれている。
一番人気は、登場人物のイラスト入りドロップ缶。喜船商店オリジナル商品だ。また、湯涌の地サイダー「柚子小町」の「花咲くいろは」バージョンにも注目。ラベル違いで各種発売されたが、あまりの人気に売り切れになったラベルも。キュートな登場人物たちを抱きしめられる「抱き枕カバー」も人気だという。
お店の主人によると、「花咲くいろは」が始まって以来、全国からのファンの訪問が絶えないそうだ。これまでの湯涌温泉では見られなかったコスプレ姿の女の子やキャラクターをペイントした車などがお目見えし、静かな温泉街が活気づいている。国内のファンだけでなく、香港の雑誌社が聖地巡礼本を作るために取材に訪れたこともあるという。
実は、湯涌温泉は2008年の集中豪雨で大きな被害を受けた。しかし、地元の皆さんの復興への努力と「花咲くいろは」効果で、かつての元気さを取り戻している。温泉街をあげて盛り上がっていて、地元の人もみんな「花咲くいろは」の世界にハマっているという。
聖地めぐりするのもよし、泉質抜群の湯でくつろぐもよし、豊かな自然に囲まれてリフレッシュするのもよし、金沢の食を楽しむのもよし。興味がある人は今年の旅行先のひとつに、湯涌温泉を加えてみてはいかがだろうか。
●information
湯涌温泉観光協会