新年度を迎えるにあたり、「そろそろ引っ越そうか」と考えている人も多いのではないでしょうか? 今回は「賃貸住宅の賢い借り方」について、不動産コンサルタントの長嶋修さんに聞いてみました。
「家賃交渉」はごく普通のこと
引っ越しの理由として、「更新料がもったいないから」と考えている人は、更新料の交渉や家賃の交渉を大家にしてみましょう。大家から見ると、最も困ることは「空室ができること」。「更新料がもったいないから」という理由だけで何も相談なしに出て行かれるより、更新料や家賃下げに応じて、そのままいてほしいと思っているケースが多数あります。
何回か更新して住み続けていると、周りの相場より割高な家賃になっているケースも多いものです。周辺相場を調べて「今の相場」に下げてもらうよう交渉するのは、ごく普通のことです。
不動産チェックで家賃交渉の下準備
相場を調べる方法は2つあります。ひとつ目はネットで調べる方法です。不動産系サイトで同じような条件(地域や部屋の作り、階設定など)の物件価格を調べましょう。ここでのポイントは、「サイトに記載されている条件より、数%は値引きして成約されうる」ということです。例えば、ネット上で8万3,000円の物件があったら、成約時には8万円程度になっていることもあります。相場を知るためには、サイト記載の家賃より少し値引く必要があります。
2つ目は、近隣の賃貸に強い不動産会社から情報を得る方法です。賃貸に強い不動産会社の見分け方は、「駅を降りた時に最も目立つところにある」、または「ディスプレイや清掃具合などの様子を観察して、『入りたくなるお店』かどうか」ということです。不動産会社といえどもお店のひとつ。飲食店を選ぶような感覚で、「にぎわいそうなお店」は何となく判断できるものです。いい感じの不動産会社が見つかったら、直接行って話を聞いてみてもいいですし、店の外に貼ってある情報を眺めるでもいいです。情報収集はこの2つで十分です。
大家も根拠がないと交渉にはなかなか応じづらいものなので、情報収集はしっかりしましょう。その結果、「相場よりも5,000円高く借りているな」と自分が思っていたら、大家もそう思っている可能性が高いので、話を切り出しやすくなります。
家賃交渉は大家さんのためでもある
「家賃の値引きを交渉」となると、一般の人にとってはハードルが高いかもしれません。しかし、大家の立場になってみると、賃貸人が出て行くのが最大のリスクなのです。まず、部屋を原状回復しないといけませんし、空き家になる期間もあります。それなら、例えば8万円で貸していた人に、家賃を7万5,000円で続けて借りてもらった方が、よっぽど得です。
つまり、家賃交渉は「賃貸人」「大家」両方にメリットがある話し合いなのです。このことを知っておけば、家賃交渉の心理的ハードルは低くなりそうです。周辺相場などの家賃交渉の計算根拠を示し、「これくらいでお願いしたいんですけど……」といった感じに切り出してみましょう。
「賃貸はクギ一本打てない」は過去のもの
家賃交渉などと同様に、自分の好きなクロスを選ばせてほしいなど、大家にドンドン交渉してみましょう。クロスなどはそんなに値の貼るものではありません。「それで入居してくれるなら喜んで」という大家さんも多いものです。
例えば「レオパレス21」でも普通にやっており、「メゾン青樹」のように、個人の大家がやっている個性派の賃貸もあります。東京エリアのデザイナーズ賃貸「good room」の物件は、不動産会社を介さず大家が直接募集しているケースも多いです。壁紙のほか、棚などを付けられる賃貸もあります。
不動産会社に広告料などを支払わない分、入居者に賃料やサービス還元できているとも言えます。近頃の大家は、「賃貸住宅業はサービス業」だと考えている人も増えており、客が喜ぶならば壁紙を替える・棚をつけるといった程度のリフォームは、融通が利くことが多いのです。
無計画なフリーレント物件は損?
最近人気のフリーレントについては、少し注意が必要です。フリーレントとは「賃料無料」のことで、賃貸条件などに「3カ月間フリーレント」と記載されていれば、契約後3カ月間は家賃を納める必要がないということです。
ですが、3カ月間フリーレントで契約するより、家賃を下げて成約した方が長期的には得な場合もあります。例えば、家賃5万円で4年住む場合、3カ月間フリーレントなら目先は15万円得しますが、4年間の家賃支払総額は225万円です。一方、フリーレントなしで4万円で契約した場合、4年間の家賃支払総額は192万円と33万円得します。長い目で見ると、家賃交渉をした方がいいという結論になります。
また、フリーレントを設定しているということは、それだけ人気がない物件だということでもあります。念のため、フリーレントにしている理由を確認しましょう。周辺のマンションが供給過多で需給関係の悪化が理由かもしれませんが、それ以外に安くしないといけない理由もあるかもしれません。
加えて、フリーレントは契約期間が決まっていることが多いので注意しましょう。例えば、「2年以内に解約すると違約金3カ月」などと、フリーレント物件を短期間で借り替えできないようになっています。
プロフィール : 長嶋 修(ながしま おさむ)
不動産デベロッパーで支店長として不動産売買業務全般を経験後、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「不動産の達人 さくら事務所」を設立、現会長。ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を目指し、2008年に日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。また、自身の個人事務所(長嶋修事務所)でTV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。『住宅購入学入門 ―いま、何を買わないか』(講談社+α新書)、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)他、著書多数。
「さくら事務所」