電車乗り換えのためにホームを移動する際、階段を昇降するのって結構面倒……。しかし、阪神電気鉄道・尼崎(あまがさき)駅では、ホーム移動に階段やエレベーターを利用する必要がないのだとか。驚くべき移動手段は、なんと停車中の電車だという。これは一体どういうことなのか!?
その移動手段は、「中通し」と呼ばれている。読んで字のごとく、利用者を“電車の中を通して”移動させることを意味する。例えば、1番線から3番線に乗り換えなければいけない場合、通常は階段を昇降して移動するが、停車している電車を開け放ち、通路として利用できるようにすれば、乗客の移動の手間が省けるというわけだ。
甲子園球場でイベント開催時に利用されていた方式
この「中通し」はもともと、甲子園球場でのイベント開催時に、甲子園駅で利用されていた。開催期間中、梅田方面から同駅4番線に入線した電車がしばらく停車する際、両サイドの扉を開け放つことで、3番線に入線した電車の乗客が4番線に停車中の電車車内を通って、臨時改札が設置された5番線へと向かえるようにしたのだ。
「梅田方面から甲子園球場へお越しになるお客さまに、スムーズに改札をご利用いただくための有効な方法として、20年以上前から定着しています」と、阪神電気鉄道経営企画室広報担当の森本裕昭さん。
こうした前例もあって、阪神なんば線が開通する際、本線と分岐する阪神尼崎駅の改修計画には、当初から“中通し”の利用が織り込まれていた。それぞれ両サイドにホームを設けた2番線と5番線に電車が待機している間、左右の扉を開放することでその中を抜けて、別の方面に向かう電車が待つホームへ移動できるようにするというものだ。
車内放送で中通しの案内を行うことも
「阪神なんば線は昭和34年(1959)に、近鉄千鳥橋と難波間の特許(免許)を取得しました。その後、平成15年(2003年)に西九条と難波間の工事に着手したのですが、難波延伸に際しては尼崎駅のホーム新設と配置変更が必要であったため、“尼崎ホームでの中通し”を盛り込んだ計画となりました」(森本さん)。
そして2009年3月20日の開通とともに、中通しが行われることになったという。ちなみに、中通しは他の私鉄でも行われているらしい。しかし、「車内放送で乗客に『プラットホームの間に停車している列車の中を通って乗り換えの線に渡って下さい』と、中通しの案内をしているのは阪神だけだと聞いています」と森本さん。
究極のバリアフリー!?
阪神尼崎駅を利用している人に感想を聞くと、「乗り換えがすぐにできて便利」「階段の上り下りが無いので楽でいいですね」など好評だ。「段差が少ないため、高齢者や車いす利用者にも喜んでいただいています」(森本さん)。
開通当初は慣れていない人も多く、いつ扉が閉まるかとびくびくしながら駆け足で抜けていく人もいたそうだが、今では、誰もが当然のように通過しているという。「他のところでもやればいいのに」という声もあるということだが、なかなかそうはいかない。きっと、実利を重んじる関西だからこそ定着した方法なのだろう。