セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏がビジネスの最前線で活躍する人たちを招いて対談する「中野晴啓世界一周の旅」。ワールドインベスターズTVで動画を閲覧することができる。今回はビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授と対談した「中国経済編」の第1回を紹介したい。第1回では、中国経済が減速しているといわれる中、その減速の"秘密"と"からくり"に迫る。

一時7%台の経済成長になったときもあったが、その実態は?

中野 : 皆さん、こんにちは。今日は皆さんがある意味一番関心を持っているであろうところについてのお話を伺いたいと思います。それは中国です。世界経済においてGDP第2位の大国、世界経済全体に与える影響は計り知れないということで、我々自身が知らなければいけない国であると思います。そのゲストとして私が自信を持ってお迎えしたのが、こちらの方でございます。ビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授です。よろしくお願いします。

田代 : よろしくお願いします。

ビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授

中野 : 田代先生は私が思うに、中国の表から裏までこの日本において一番詳しい方ではないでしょうか。表はもちろんですが、中国の我々が知らない世界を今までたくさん教えていただきました。その中で今日はお話いただける範囲のことを是非皆さんに共有していただこうと思っています。その一つは、中国経済が失速していると言われている中で、本当はどうなのか。このまま平和でいってくれるのだろうか、そういったところからお話を伺いつつ、中国の本当の意味で力があるチャイナマネー、こういうところの実態にも迫っていきたいと思っています。まず第1回目は、中国の現状の実体経済について伺いたいと思います。田代さん、2012年は一時7%台の経済成長になったときもあって、いよいよ中国も終りではないかと言われていましたが、この辺の実態は実はどうなんですか。

田代 : まず中国は意図的に減速している。経済成長を減速させていて、これは失速ではありません。なぜかというと、中国は潜在成長率、つまりインフレーションを伴わない経済成長率が低下していることを認めているんですね。それにあわせて実際の成長率も低下させている。とりあえず成長目標である8%を7.5にして、次に7にする。5年以内に7、さらに10年後にはたとえば6とだんだん落としていく。これはなぜかというと、中国経済は十分に大きな規模になっていますから、そこで2ケタ成長にしたら中国の環境が持たない。あとインフレーションが起きる可能性があります。

中国で「インフレーション」は権力者にとっては"命取り"

中野 : インフレになりますね。

田代 : 中国でインフレーションは権力者にとっては命取りです。

中野 : なぜですか。

田代 : 中国人にとってインフレーションは、権力が天命を失った兆候だとされるわけです。すべての王朝は最後はインフレーションを抑制できなくなって崩壊しているわけです。国民党も上海でものすごいインフレーションを起こしてしまって、台湾に逃げ出したわけです。共産党といえども、インフレーションを止められなくなったら権力は維持できないとふんでいるわけです。

中野 : 共産党政府が一番恐れているのはインフレーションだと。ということはインフレをコントロールするために、経済を軟着陸させていく。

田代 : そうです。ハードランニングを避けてゆっくり軟着陸させていく。たとえば、これは中国がゴールドマンサックスの協力を得て発表している中国の景気指数です。これが100だとちょうどいい対応です。100を超えるとだんだん熱が上がっている。

パソコンの数値を見せながら中国の現状について説明する田代氏

中野 : 過熱しているということですね。

田代 : 100を下回っていると熱が下がっている。100がちょうどいい。これを見るとわかるように、実はリーマンショックの後、ガン、と落ちているわけです。

中野 : それはしょうがないですね。

田代 : それを4兆元の投資で引っ張り上げたのですが、これでインフレーションが起きたわけです。これをずっと今まで抑えてきて、去年の夏でそれが底を打っています。これでおわかりのように去年の夏以降は中国経済が上向きになっている。これは意図している。これ以上下げてはいけないところまで下げて、一旦インフレーションの目を摘んでから、今景気を少しターゲットラインを持ってきたというところです。こういうことがなぜできるのか。日本では考えられないことですね。

中野 : そこが不思議ですね。

「中国共産党」とは、約八千数百万人の党員を抱えている大集団

田代 : これは中国共産党とは何か。中国共産党とは約八千数百万人の党員を抱えている大集団です。これは成人人口の約7%から8%です。そこに入っているのは革命家ではありません。これは中国社会におけるエリートです。たとえばノーベル文学賞を受賞した作家も共産党員です。中国文芸家協会の要職についているわけです。その人たちは全員共産党員です。もし中国にいれば中野さんも共産党員です。

中野 : そうなんですか。

田代 : ファンドマネージャーも共産党員です。特殊技能を持った人。

中野 : それでは共産党員でなければ高いレベルの仕事に着けないのですか。

田代 : 経営職、管理職、高級専門職には就けません。ですから、そういう職に就くのと同時に共産党員になるわけですから、共産党員といえば社会のエリートの集団なんです。

中野 : 誰でもなりたいと思ってもなれないのですか。

田代 : なれないです。その一歩手前に、18歳から27歳の人が入る共産主義青年団という、共青団といいますが、これは約8000万人います。これは当該人口の約4分の1くらいは入っています。ここで実績を出すと次に共産党員になれるわけです。

中野 : 第一のふるいがあって、次のふるいがふって。

田代 : その前もあって少年先鋒隊というのがあって、これは共産主義青年団の育成機関で、ここは子どもの半数近くが入っています。

中野 : 狭き門なわけですね。

田代 : そこの共産党員を共産党がグリップしているわけですから、ここを通じて、この投資をやれ、こっちをやりなさいということができるわけです。

中野 : 優秀な人をピックアップしているのですね。すごい集団ですね。

中国はハードランディングを避けて、ソフトランディングが可能

田代 : ですから、中国はハードランディングを避けて、ソフトランディングが可能なのです。西洋的な意味で民主化していないからですが、しかし中国はそのようにして、日本を超える巨大な経済がゆっくりとソフトランディングに向かっている。これは世界経済にとっていいことです。もしも中国がハードランディングしてしまったら、世界経済はアウトです。

中野 : えらいことですね。ということは、2013年という目先の状況だけを見たときにおいても、中国経済というのは確かに成長率が鈍っている、これを一つのリスクとして我々はすぐとらえてしまうのですが、これはある意味いいことであると。

田代 : そうです。

中野 : そして、その減速していく中で、世界経済全体の成長が維持されるという。

田代 : ただ減速はしますけどね。無理して2ケタ成長しないと決めて1ケタ成長に徹する。

中野 : 7%ですか、8%ですか。今年は。

田代 : 7.5と言っていますから。すごいことですよ。日本を超える大きさの経済が7.5ですから。

セゾン投信社長の中野氏は、「これからが中国経済の第2ステージなんですね」と感想を話した

中野 : そのレベルでいっても10年で倍になるわけですから、大高度経済成長ではないですか。

田代 : だけどそれを認識できた企業は伸びますが、ここをミスして中国から撤退などしようものならその企業にとっては苦しくなりますね。

中野 : なるほど、そういうことなんですね。我々結構勘違いしていますね。中国経済はもう頭打ちになって、これから変わっていくだろうと、そんな論調がありますが、これからが中国経済の第2ステージなんですね。次は中国の巨大なマネーについて、これが世界経済にどういう影響を与えていくかぜひ教えてください。ありがとうございました。