博多のお土産と言えば、辛子明太子か「ひよこ」あたりがメジャーだろう。しかし、博多ツウならばこれ!と言える珍しいスイーツがある。その名も「鶏卵素麺(ケイランソーメン)」だ。
「これはお菓子ですから、湯がかずに」
その名前と形状から、お土産にもらった人が本物のソーメンとかん違いしてゆでてしまい、溶けて流れてしまったという逸話もあるシロモノ。なんと、パッケージには「これはお菓子ですから、湯がかずに」と、わざわざ注意書きまで添えられている。
実はこの商品、400年もの間、変わらずに同じ製法で作られてきた伝説のスイーツなのである。
その製法は至ってシンプル。五温糖または白ザラメと呼ばれる砂糖を沸騰させ液体にした中に、ソーメンほどの細い幅の穴を開けた筒状の器から卵黄を流し込む。すると、ソーメン状に伸びた卵黄が五温糖とからまる。これを引き上げて冷やすと、鶏卵素麺のできあがりだ。
こうして完成した鶏卵素麺は、原料が砂糖と卵の黄身だけのため、指でふれると溶けてしまいそうな感触。口に入れるとザラメ状の砂糖が舌の上を這(は)い、口の中が素朴な甘みでいっぱいになる。
ソーメン状の卵の黄身にはねばりがあり、甘みも食感も独特で、他に似たスイーツがない。400年前に生きた人々が好んだ甘さは、どうやら現代人の舌もトリコにしてしまうらしい。
信仰へ誘うスイーツとして宣教師たちが振舞う
この鶏卵素麺は、織田信長や豊臣秀吉が活躍していた安土桃山時代に、ヨーロッパからやってきたキリスト教宣教師が伝えてきたもの。
宣教師たちは、その頃の日本にはなかった砂糖や卵をふんだんに使った甘い南蛮菓子を振る舞い、日本人を信仰に誘ったという記録が残っている。鶏卵素麺も、信仰へ誘う甘いスイーツのひとつとして、博多で作られ始めたらしい。
そんな長い歴史を持つ鶏卵素麺だが、今、存亡の危機にひんしているという。江戸時代には福岡藩のキッチンで作られ、明治以降は福岡市内のほうぼうの菓子店で作られていたのだが、近年は松屋菓子舗と石村萬盛堂という老舗の2軒だけでの製造になっていた。
今では石村萬盛堂だけが歴史を受け継ぐ
そしてなんと2012年末には、松屋菓子舗がのれんを下ろしてしまい、2013年に入って鶏卵素麺を製造する菓子店は、とうとう石村萬盛堂だけとなってしまったのだ。絶滅の危機的状況である。
そんな貴重な鶏卵素麺の価格は、1パック525円から。全国のみなさん、博多にお立ち寄りの際には、ぜひこの伝説のスイーツを試してみてほしい。
全国区の人気スイーツとなれば、製造メーカー数が再び増えてくれるかもしれない! 博多っ子としては、400年も続いた伝説のスイーツを、ぜひ後世に伝えていければと願うばかりなのである。