ST-Ericssonは、スペイン・バルセロナで開催されている携帯関連見本市「Mobile World Congress 2013」の会場で、FD-SOI(Fully Depleted - Silicon On Insurator。完全空乏型SOIとも)を採用したNovaThor L8580のデモを行い、0.64Vで3GHz動作が可能であることを示した。

NovaThorは、LTEモデムを統合したクアッドコアのモバイル向けプロセッサ。CPUコアには、ARM社のCortex-A9を採用している。最大の特徴は、FD-SOIプロセスにより、低消費電力化が行われており、低い電源電圧で高いクロック周波数が利用可能なこと。FD-SOIは、リーク電流が小さく、これにより、電源電圧を下げ、かつ、低消費電力を実現できる半導体の製造技術。具体的には、トランジスタの下(ソース、ドレイン間)とゲートの下にFD-SOIによる層を作り、リークを抑制する。

NovaThorの電源電圧と動作周波数を示すデモ。400MHzなら0.60V、1GHz以上でも0.64Vで動作する

NovaThor L8580を搭載したプロトタイプ。Androidを動作させ、既存の機種との比較を行う

製造は、関連会社となるST Microelectronics(本社スイスジュネーブ)のフランス国内の工場。ST-Ericssonは、ST MicroelectronicsとEricsson社のモバイル向け半導体部門をスピンアウトさせて作った企業。設計をST-Ericsson側で行い、製造は、ST Microelectronicsが行った。製造プロセスは28nmである。

今回デモが行われたNovaThor L8580がFD-SOIを採用する最初のデバイスであり、現在サンプルを顧客に提供中で、来年には量産を開始できるという。

製造したST Microelectronicsによれば、FD-SOIは、Fin型のトランジスタに比べて構造が簡単で製造が容易だという。FD-SOIの特徴として、チャネル長(ソースとドレインの距離)を短くしたときに発生する「短チャネル効果」を抑制できるため、高速動作が可能になる(一般にチャンネル長が短いほど動作速度は速くなる)。ただし、副作用として閾値電圧が下がったり、リーク電流が増えるといった問題が発生するため、単純にチャネル長を短くすることはできない。しかし、プロセスの微細化により、必然的にチャネル長が短くなるため、どのような場合でも何らかの対策が必要になる。こうした対策技術の1つが、FD-SOIだ。

また、同社によれば、FD-SOIの製造技術は、Global Founcariesにもライセンスが行われており、同社でFD-SOIを使った製品の製造が可能になる予定だという。

NovaThor L8580は、コアは現在広く使われているCortex-A9だが、FD-SOIにより、0.6Vで3GHzの動作が可能になっており、他社のプロセッサに比べて高い周波数で動作させても、消費電力が小さく、そのために発熱量も低くなっている。逆に周波数を抑えれば、より低消費電力、低発熱のシステムを作ることが可能になる。また、すでに、同社のLTEモデムなどは、国内でも利用実績があり、L8580は、同じモデムをプロセッサと同じダイに統合している。ちなみに、NovaThorとは、アプリケーションプロセッサのブランドであるNovaと、ベースバンドプロセッサ製品のThorをつなげた名称で、モデムを統合したアプリケーションプロセッサ向けのブランドとなっている。

アプリケーションによる速度比較。3GHzで動作するクアッドコアのCortex-A9により、他のCortex-A9コアを採用するSoCよりも短時間で処理が終わる

ゲーム中に動作クロックをモニタしたところ。ゲーム開始前は、Low Power状態だが、ゲームが開始されると3GHzにまでクロックが上がる

FD-SOIは、トランジスタの下側に絶縁物の層(写真のオレンジの部分)をもつ構造。バルク型に比べてダイ側に逃げるリーク電流を押さえることができる

同クロックで動作させた場合の従来型(バルク型)プロセッサとFD-SOIの発熱量の違い。左側のバルク型半導体では、発熱量が多くこれが赤い色で示されている。右側のFD-SOIでは、うっすらと赤くなっている程度で、温度(発熱量)の違いを見ることができる

GPU部分は、Imagination社のIPを利用しているとのことだが、内蔵するビデオプロセッサは、MiraCast用のエンコーダーを備え、動画ファイルのデコードと同時にMiraCast側に出力することが可能だという。実際のデモでは、本体側とMiracast側の間に遅延がなく再生が行われていた。また、2つのビデオストリームのデコードも可能で、MiraCast側と本体液晶で別々の動画ストリームを再生することができる。また、このビデオプロセッサは、最大120fpsでの動画撮影にも対応し、スローモーション撮影も可能だという。

NovaThor L8580のLTEモデム部分は、Thor M7450としても製品化されており、こちらは、日本を含む米国、韓国などのLTEサービスを開始している各国の事業者に認定された製品になっているという。LTEの第二世代に相当する最大150Mbpsでの通信が可能。

ST-Ericsson社は、その関係から、旧Sony-Ericsson社の製品によくつかわれていた。現行の日本国内の製品では、同社のモデムチップ(Thor M5780/5730)がパナソニックのEluga Tablet P08DやシャープのAquosフォンSH06D/102SHなどで採用されている。

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