NVIDIAは米国時間の2月19日、LTEに対応した同社のi500ベースバンドプロセッサを統合したスマートフォン向けSoC「Tegra 4i」を発表した。同製品は、開発コードネーム"Project Grey"で知られる製品で、Tegra 4ファミリーのエントリーモデルとしての役割を果たし、世界市場で急拡大している100ドル台の低価格スマートフォン市場を担う製品として期待される。

同社は、このTegra 4iのデモを2月25日からスペインはバルセロナで開催されるMobile World Congress 2013で披露するほか、同SoCを採用するパートナーや製品戦略についても情報を公開する見通しだ。

NVIDIAは、Tegra 4ファミリーに同社のi500ベースバンドプロセッサを統合した「Tegra 4i」を追加。年内に量産出荷を開始し、年末には搭載製品も登場する見通しだ

Cortex-A15ではなく、Cortex-A9 R4を採用

Tegra 4iは、今年1月に発表されたTegra 4にi500 LTEモデムを統合した製品というわけではない。NVIDIAでTegraのプロダクトマーケティングを統括するMatt Wuebbling氏(Director, Product Marketing, Tegra)は、「Tegra 4iでは、Tegra 4のARM Cortex-A15コアではなく、電力効率に優れたARMの最新コア Cortex-A9 "R4"を、4+1の構成で搭載している」と説明。この"R4"は、Cortex-A9の最新リリース版という位置付けで、28nmプロセスへの最適化が図られたことで、省電力化と高クロック動作を両立させており、「従来のCortex-A9コアに比べて15~30%のパフォーマンス向上を果たしている」(同氏)と言う。これにより、同じCortex-A9を採用するTegra 3と比較すると、動作クロックは最大1.7GHzから2.3GHzに向上しながら、40nmプロセスから28nmプロセスへと微細化されたこともあって消費電力は大幅に低減されているようだ。

Tegra 4iの概要。CPUコアにはARM Cortex-A9の最新リビジョンとなる"R4"を採用し、グラフィックスはTegra 4と同じGPUコアを60基搭載する

一方、グラフィックスコアはTegra 4と同じだが、コア数は72から60へとやや減っている。同社は、現時点ではピクセルシェーダとバーテックスシェーダの構成を明らかにはしていない。しかし、Tegra 4がピクセルシェーダが48コア、バーテックスシェーダが24コアという構成を採っていることから、Tegra 4iではピクセルシェーダが40コア、バーテックスシェーダが20コアという構成だと類推される。また、Wuebbling氏はTegra 4iのビデオ機能やイメージシグナルプロセッサなども、Tegra 4と同じものだと説明。これにより、Tegra 4で追加された、高速な連写と写真合成を可能することで、より自然なHDR(High Dynamic Range)写真を実現する"Computational Photograph Architecture"などの新機能もTegra 4iでサポートされる。さらに、同氏はComputational Photograph Architectureでは、タッチインターフェースを活かして動きのある被写体を指定すれば、そのままピントなどをあわせ続けてくれる機能や、HDRによるパノラマ撮影などもサポートされる予定であることも明らかにした。

Tegra 4iに統合されたi500は、ソフトウェアモデム技術を活かしてLTEとCA(Carrier Aggregetion)、HSPA+、TD-HSPAなどをシングルチップでサポート。一般的な同機能のベースバンドプロセッサに比べて、半分以下のチップサイズを実現。さらに、Tegra 4iではi500の機能をSoCに統合することで、「単一チップにするときには不可欠だった、パッド(チップ内部の回路への電源や信号供給を実現するため、チップ周辺部に設けられる電極のこと)をSoCと共用できるため、より少ない面積で機能統合ができた」(同氏)とアピール。そのチップサイズは66平方mmと、競合製品の半分のサイズを実現していると説明。同社は新たに「チップ面積あたりのパフォーマンス」という指標を使って、最大のライバルとなるQualcommのSnapdragon S800との比較データも公表した。

■Tegra比較表
Tegra 4 Tegra 4i Tegra 3
製造プロセス 28nm 28nm 40nm
CPUコア ARM Cortex-A15 ARM Cortex-A9 R4 ARM Cortex-A9
コア数 4+1 4+1 4+1
最大CPUクロック 1.9GHz 2.3GHz 1.7GHz
GPUコア 72 60 12
メモリ DDR3L & LPDDR3 LPDDR3 DDR3-L & LPDDR2
メモリチャネル デュアル デュアル?(未公開) シングル
最大メモリ容量 4GB 2GB 2GB
LCDパネル出力(最大) 3200×2000ピクセル 1920×1200ピクセル 2048×1536ピクセル
HDMI 4K(UltraHD) 1080p 1080p
ベースバンドプロセッサ オプション NVIDIA i500内蔵 オプション
パッケージサイズ 23×23mm BGA
14×14mm FCCSP
12×12mm POP
12×12mm FCCSP
24.5×24.5mm BGA
14×14mm FCCSP
NVIDIA Direct Touch
NVIDIA PRISM Display Technology 2.0 2.0 1.0
Computational Photography Architecture ×
■NVIDIA i500スペック
LTE CAT3/CAT4 100~150Mbps(下り)、50Mbps(上り)
CA(Carrier Aggregation) 10MHz+10MHz(下り)
HSPA+ CAT24/6 42Mbps(下り)、5.7Mbps(上り)およびCAT6、8、10、14、18
TD-HSPA CAT24/6 4.2Mbps(下り)、2.2Mbps(上り)、TD-SCDMAを含む
2G GSM、GPRS、EDGE(クラス12まで)
2G/3G音声機能 複数のマイクによるエコーキャンセラ、ノイズリダクション、AMR-WB、AMR-NB、FR、EFR、HR
LTE音声機能 CSFB(回線交換フォールバック)およびVoLTE(Voice over LTE)
チップパッケージ 7×7mm、Tegra 4iは同機能をSoCに統合
製造プロセス 28nm

NVIDIA i500と一般的なベースバンドプロセッサの比較。ソフトウェアモデム技術を採用することで、i500のダイサイズは同等の機能をサポートするベースバンドプロセッサの40%程度に抑えることができるという

Tegra 4iは競合製品と比べて半分のチップサイズを実現したとのアピール

ARM Coretex-A9 R4コアを28nmに微細化したこともあり、i500ソフトウェアモデムを統合しても小さなチップにまとめ上げることができた

「チップ面積あたりのパフォーマンス」という指標を使って、QualcommのSnapdragon S800とパフォーマンス比較も行なった

Tegra 4ファミリーの特徴の一つでもある、Computational Photogarphy Architectureでは、動く被写体をタップで指定してピントをあわせ続けるといった新機能も提供される計画であることが明らかにされた