オンラインの授業で、経営の学士が取得できるビジネス・ブレークスルー大学(以下・BBT大学)は2月8日、20代、30代のビジネスパーソンを対象とした公開フォーラムを開催した。
同大学は、100%オンラインで経営の学士を取得できる日本初の大学として、2010年4月に開学した。学長は、経営コンサルタントの大前研一氏。「経営」「IT」「問題解決能力」「リーダーシップ」「英語」をカリキュラムの柱とし、「教える」のではなく、学生が「学ぶ」のを促す教育を行っている。
また、同校では、MBA、マーケティング、財務、法務といったハードスキルだけでなく、リーダーシップやコミュニケーション力などハードスキルを使うための基礎となるソフトスキル(※)、さらにハードスキルとソフトスキルの中間に位置する問題解決力、それらすべてが合わさることで力を発揮できると考えている。
※ソフトスキルとは、コミュニケーションや文化理解、リーダーシップ、ファシリテーションなど、答えのない複雑な問題を解決するためのスキルを指す。
今回の公開フォーラムは、「専門スキルだけでは足りない! 次世代ビジネスパーソンのための10年先も食える・戦える・勝てるソフトスキル」と題して行われた。
正解がない社会で求められることとは?
第一部では、東京都で義務教育初となる民間人校長を勤めた藤原和博氏と、BBT大学経営学部教授で、グローバル人事・組織コンサルティングに従事するキャメル・ヤマモト氏が講演を行った。
藤原氏の講演テーマは、「『坂の上の坂』20代、30代の人生戦略のために。今、最も大事なこと」。
20世紀は成長社会で、ひとつの正解が求められていたのに対して、21世紀は成熟社会だと藤原氏はいう。現代日本において正解はひとつではなく、自分や他者を納得させることができる答えを導き出すことが必要であり、そのためには「情報編集力」が不可欠とのこと。
藤原氏は「情報収集力」について、状況に合わせて、自分の知識、経験、技術を組み合わせ、さらにほかの人の知識、経験、技術をたぐり寄せて問題解決にあたることと定義している。
つまり、自分ひとりで解を導きだすのではなく、ほかの人の脳までもリンクさせることが情報収集力においては大事だということ。これはプレゼンテーションにも共通して言える。
なぜなら、プレゼンテーションは相手の頭の中で、映像を描かせて伝えなければならないからだ。言いたいことを自分の言葉で伝えるだけでは、相手の印象には残らない。相手のことを良く知り、それにあわせて伝えたいことを編集する。それを続けることで、信頼関係へと発展していくと藤原氏は説く。
そこで、受講者が二人一組となり、質問し合いながら、お互いの共通点を探るトレーニングを交え、自分のキャラクターを相手に合わせて編集するノウハウを紹介。
例えば、有名人に似ていると言われる人は、「私は○○○○に似ていると言われます」と自己紹介すれば、その人を知っている人には、インパクトを与えることができる。また、「私はこんなによくしゃべるのに、『静子』という名前なんです」とイメージと逆のことをいうのも有効だという。
相手の反応を見ながら、まずは言ってみる。うまく行かなくても、回数を重ねること。そして相手がどのようなことに興味を持ち、知識を持っているかアンテナを張ることで、相手の記憶に残るプレゼンテーションができ、情報編集力が身につくようになる。
また、講演のテーマでもある「坂の上の坂」について、藤原氏は次のように説明した。
司馬遼太郎氏の小説「坂の上の雲」は、明治時代の話。その時代は、人生のピークで死を迎えることが少なくなかったため、坂の上にある「雲」のことだけを考え、邁進していればよかった。
しかし、現代は人生のピークを迎えて坂の上の雲に到達しても、寿命が延びたことで、まだ長い坂が残っている。その長い坂で何をすべきかをその時になって初めて考えても遅い。
しかし、20代、30代のうちから、並行していくつもの坂を上りはじめておけば、想定しないアクシデントに見舞われたとしても、ほかにもピークが間近に迫っている坂があれば、そちらにシフトすることもできる。つまり、リスクヘッジにもなる。
最後、藤原氏は、「今の時代にふさわしい人生を歩むために、20代、30代のころから『坂の上の坂」を意識して、裾野を広げてください」と講演を結んだ。
グローバルリーダーに必要なのは、専門性、リーダーシップ、外交力
フォーラム第一部の後半では、キャメル・ヤマモト氏が、外務省や外資系人事・組織コンサルティング会社勤務の経験から、「グローバル時代を生き抜くためのリーダーシップ」というテーマで講演した。
キャメル氏によれば、世界中とつながっているグローバルの時代は、力があれば、世界中から最も良い物を選択できる時代であり、ここにしかないものを見つけ出すことができる時代でもあるという。ただ、専門性、リーダーシップ、外交力の3つの力が必要になるとのこと。
「専門性には、職能的な技術や知識のほか、事業や地域という特性も含まれる。リーダーシップは構想力、構造力、行動力。外交力は語学力やコミュニケーション力、人脈形成力、情勢判断力」とキャメル氏は定義する。
ただ、日本的な組織や風土では、周囲をおもんばかって、なかなか上記の力を出しにくいが、「勇気をもって、専門性と外交力を持ったグローバルなリーダーシップを発揮していくと有利な環境を作れる」とキャメル氏。
例えば、会議で自分の強みや自分が得意な分野を活かせる提案、周囲を徐々に巻き込み、徐々にリーダーシップを発揮する。無策でやるのではなく、台本を書き頭の中でシミュレーションしてみることをキャメル氏は勧める。
ほかにも、英語力を強みとしたいのならば、毎日英語に触れる。コミュニケーション力を高めたいのであれば、社内で話したことがない人に話しかけてみるなど、「いくらかけ離れていても日々続けることで確実に力になる」とキャメル氏は語った。
習慣化することで身につくソフトスキル
フォーラム第二部のトークセッションでは、同大学学部・事務局長の宇野令一郎氏がモデレーターを務め、藤原氏、キャメル氏に、ビジネスパーソンに必要とされるソフトスキルについて質問する形で進められた。
まず、「最も重要なソフトスキルは?」という質問に対して、キャメル氏は「強みをつくり、活かしきる力」、藤原氏は「情報編集力」であると答えた。
キャメル氏は、「強みがなければ生き残れないとこともあるが、強みを持っても、活かさなければつまらないし、強みを出すことでほかとのコラボレーションも生まれ、より広がる。そのためにも強みを活かし切ってほしい」と言う。
藤原氏によると、情報編集力は、足し算ではなく、掛け算でより高い価値が出るとのこと。これは、キャリア形成についても言える。ひとつのことで秀でるのは難しくても、組み合わせで希少性が高まるからだ。
例えば、美容師が技術だけで"カリスマ美容師"のような1万人に1人の選ばれた存在になるのは難しくても、100人に1人の存在にはなれるだろう。さらにその人がお笑い好きであれば、それを磨いて100人に1人のレベルになる。
「それを掛けあわせれば1万人に1人の存在になれる」と藤原氏。どの分野とどの分野を掛け合わせるか、それを導き出すのも情報編集力なのだという。
次に、「ソフトスキルはどうすれば身につくか」と聞かれ、キャメル氏は、朝食を食べているときや通勤時間など、毎日必ずやることのついでにやる方法を紹介した。例えば、同氏は、日本にいても英語を錆びつかせないために、食事中など、何かほかのことをやりながら、英語を聞くことを習慣化している。
同じ質問に藤原氏は、名刺に頼らずに自分を印象付けるプレゼン術を磨くことをあげた。まずは相手の話をよく聞き、どんな人なのか、何に興味を持っているのか、どんなことに反応するかを知る。
さらに、電車の中や街中でも、人の行動にアンテナを張る。本を読んでいる人は何人いるか。携帯電話を操作しているのはどんな人か。日頃からマーケティングの感性を磨くことも、情報収集力に役立つからだ。
「あとはどんどんやってみること」と藤原氏。正解がない時代なのだから、行動し修正し続ける回路を作る。それを繰り返し、情報編集力を養ってほしいと、エールを送った。