全国各地に存在する個性豊かな方言。旅先でその土地独特の言葉を耳にして驚くことも少なくないが、富山県には、なんと富山弁を分かりやすくまとめた番付表がある。それを見ると、富山弁の表現の豊かさと、富山の風土や文化が浮かび上がってくる。今回はどこか温かくてどこか面白い、富山の方言を紹介する。
富山を代表する方言「きときと」と「きのどくな」
「富山県方言番付表」は2006年、富山弁を織り交ぜたスピーチ大会開催に合わせて富山商工会議所から発行された。編集を担当しているのは、方言研究家の簔島良二さん。監修は富山大学の中井精一教授が行っている。
こちらの番付表では、約400の富山弁が紹介されているのだが、選定した言語は使用頻度などから点数化され、点数が高い方から「横綱」「大関」などに認定されている。
西の横綱に輝いたのは「きときと」。これは「生き生きしている」という意味で、新鮮な魚を指して「この魚、きときとやな」といった風に使う。県内には「きときと寿し」「きときと市場」などもある他、富山県内ではよく目にする言葉だ。
一方、東の横綱に君臨したのは「きのどくな」だ。これは「ありがとう」という意味で、「こんなにしてくれて申し訳ない」が転じて、感謝を表現する言葉になったもの。決して「お気の毒さま」と、気の毒がっているのではないのでご注意を。
かわいらしくてキュンとする富山弁の語尾
富山弁は某テレビ番組の調査で、「男性がキュンとする女性の方言ランキング」で2位を獲得したことがある。その理由はどうも語尾にあるらしい。富山弁では語尾に「~ちゃ」をつける。「いいよ」は「いいちゃ」、「がんばるよ」は「がんばるちゃ」となり、確かにかわいらしい。
同じく語尾で興味深いのは「~れ」「~られ」の表現。「来てね」は「来られ」、「食べて」は「食べられ」というように、尊敬や親しみをこめて声をかける時に使う。これも優しさがこもった言い方で、かわいらしい方言と言えるだろう。
富山のある社長さんは、「富山弁で社員をしかると、かえって場が和んでしまう」と言う。確かに「営業先にすぐ行ってこい」が富山弁では「営業先にすぐ行ってこられ」となるため、迫力に欠ける感はある。しかし、和やかな雰囲気で仕事ができるのは富山弁のおかげという部分もあり、多くの県民は富山弁を気に入っているようだ。
語尾はそれぞれの方言の特徴がよく出る部分。富山県民は、旅行や帰省で富山に帰る電車内での会話に「~ちゃ」「~られ」の語尾が増えるにつれ、「ふるさとに帰ってきたなぁ」と安心感を覚えるそうだ。
食べ物の呼び名「グジ」と「サス」って何のこと?
日本海と立山連峰に囲まれた富山は、食の豊かな土地だ。そのため食べ物に関する独特の表現が多い。番付表の一番下の段には、食べ物に関する方言がまとめられている。例えば、富山を代表する海の幸「ホタルイカ」は、「マツイカ」「コイカ」などと呼ばれる。また、「アマダイ」は「グジ」、「カジキマグロ」は「サス」と言う。
いずれも富山県内のスーパーやおすし屋さんでは、普通に使われている。あまりになじんでいるため、「グジ」や「サス」が富山弁だと気づかずに使っていたという県民も多い。逆にいうと、観光客には何のことだか分からないこともあり得るので、これから富山に行く人は覚えておいて損はないだろう。
知らないとビックリしてしまう独特の富山弁も
比較的穏やかで耳なじみのいい富山弁だが、初めて耳にする人はビックリしてしまうような言葉もある。
例えば「だいてやる」という言葉。富山では、上司が部下に「だいてやるわいや」なんて言っている光景がよく見られるが、これは「(お金を)出してやる」が変化した、「おごってあげる」という意味の方言。決して「抱いてやる」とセクハラ発言しているわけではないので、言われても怒らないように。
それ以上にビックリしてしまいそうなのが、番付では西の前頭に入っている「おちんちんかく」。これは決していやらしい言葉ではなく、子どもなどに対して「おとなしく正座していなさい」という意味で使われる。「鎮座」が変化してこのような表現になったようだ。
とはいえ、現在そのまま使う人は少なく、少し短くした「ちんとしてなさい」という表現を使う人が多いそうだ。
日本列島のほぼ真ん中に位置する富山県の方言は、関西の影響を受けつつ、地元の風土や食文化を反映した独特の言葉だ。その語源や使い方を考えてみると、富山の人たちの優しさや気遣い、地の物に対する愛情などが感じられ、富山のいろいろな面が見えてくる。
この「富山県方言番付表」は県内観光スポットなどに貼ってある他、富山駅内の道の駅や観光スポットなどで、1枚100円で販売されている。富山商工会議所によると、このようにたくさんの方言を集めた番付というのは全国的にも珍しいため、発行から6年たった今でも問い合わせが多いそうだ。
富山に足を運んだ時には、地元の人たちの会話などにもぜひ耳を傾けて、温かくて興味深い富山弁を感じてほしい。