君塚良一監督、フジテレビの亀山千広氏が24日、都内にて行われた映画『遺体 明日への十日間』(2月23日公開)の外国人記者向けの記者発表会に出席した。
日本に派遣されている外国の報道機関やジャーナリストのために運営されている日本外国特派員協会(外国人記者クラブ)主催で開かれた今回の会見。2011年3月11日に発生した東日本大震災の津波による被害を受けた岩手県釜石市を舞台に描かれた本作は、海外メディアの関心も高く、外国人記者からは君塚監督、亀山氏に鋭い質問が飛んだ。
まず最初の記者から出た質問が「最もインパクトのある福島原発事故をなぜ描かなかったのか」。釜石市の廃校となった中学校の体育館が遺体安置所として使われ、そこに集う人々の人間模様を描いた本作では、確かに原発のことには触れられていない。君塚監督は、「僕は映画で"人間"を描きたかったんですね」と語ると、「システムや政治の矛盾よりも釜石で起きた出来事の方が"人間"を描けると思ったからです」と説明した。
原作は、石井光太氏のルポルタージュ本『遺体 震災、津波の果てに』。ある記者は、映画化にあたっての"映画的にした部分"を聞く。これに対して、君塚監督は「ルポルタージュであった事、そこで起きていたことをありのままに、創作を加えずに作りました」と答え、一方、亀山氏は「遺族のモデルになった方々もいらっしゃいますので、現地に足を運んで映画化の了解をいただきながら、自分のモデルの人間は出して欲しくないという方は、ルポルタージュにあってもそのエピソードは描いていません」とした。
また、別の記者が「音楽によって感情を盛り上げなかったこと」を高く評価すると、亀山氏はくすりと笑い、君塚監督は深く頷いた。まず、君塚監督が「当時体育館にいた関係者やご遺族に聞いたところ、聞こえてきた音は"泥の上を歩く靴の音"と"すすり泣く泣き声"、それから"遠くにいるパトカーのサイレン"。この3つしか聞こえなかったと聞きました。その記憶を尊重してその3つの音でほぼ全編作りました」と説明すると、亀山氏は「音楽につきましてはプロデューサーとしてはもっと入れてほしいと言いました」と明かし、『踊る大捜査線』シリーズを手掛けた本広克行氏からも「音楽はとことん抜いた方がいい」との意見があったことから、このような手法に至ったのだという。
同作は西田敏行演じる相葉常夫を中心に描かれている。震災直後、遺体安置所として使われていた旧釜石第二中学校を訪れた相葉は、その惨状に言葉を失いながらも過去に葬儀屋として働いていた経験から、"遺体の尊厳"を周囲の人々に訴えていく。