「遠州灘天然とらふぐ」

ふぐといえば山口県下関市が有名だが、静岡県浜松市も全国屈指の"ふぐどころ"であることはご存じだろうか。浜松市を囲む遠州灘で漁を営む鈴木邦夫さんによれば、実は下関市の「天然とらふぐ」も多くは遠州灘でとれたもの。浜松市では漁港・加工処理場直送の新鮮な浜松ブランド「遠州灘天然とらふぐ」を食べることができる。

浜松市で食べられる、新鮮な天然とらふぐを使ったふぐ料理(料理は舘山寺温泉の「浜名湖グランドホテルさざなみ館」のもの、「遠州灘産とらふぐ会席」(1泊2食付1万8,000円~、1室2名~))

ふぐの中でも最高級のとらふぐ。さらに希少なのが、天然とらふぐだ。国内で流通している「とらふぐ」の9割は養殖もので天然ものはわずかに1割しかないという。この天然もののうち、3~4割が遠州灘で漁獲されているといわれている。

天然ふぐの玄関! 遠州灘にのぞむ舞阪漁港

舞阪漁港でとらふぐ漁を営む「妙将丸」船長の鈴木邦夫さん

浜松市にあり、遠州灘をのぞむ舞阪漁港からは、約40隻が漁を営んでいる。毎年10月に漁が解禁となり、「はえ縄漁」と呼ばれる漁法でふぐに傷をつけないように丁寧に釣り上げる。一定の大きさに満たないものはリリースするなど資源管理と品質確保にも力を入れているという。

「はえ縄漁」に使われる、たくさんのハリが一定間隔につけられた漁具

加工場ができて「遠州灘天然とらふぐ」ブランド誕生

かつてはこの漁場でとれたふぐのほとんどが下関市に送られ、「下関ブランド」として全国に流通していた。ふぐの内臓には猛毒があり、専門の資格をもった調理師しか「ふぐ料理」をさばくことができず、浜松市にはその調理師がいる専門の加工処理工場がなかったのだ。

そこで地元で「遠州灘で水揚げされる天然とらふぐを地元のブランドとして提供したい」という思いが高まり、2003年にふぐ加工処理工場が設立された。ここから「遠州灘天然とらふぐ」のブランド名での売り出しが開始されたという。

ふぐ加工処理工場には舞阪漁港から直送された天然とらふぐが集まる

舞阪漁港で水揚げされたふぐは、遠州灘ふぐ調理用加工協同組合が一括で仕入れ、漁港から車で数分のところにあるこの加工処理工場へと運ばれる。ここで加工されたとらふぐは舘山寺温泉や浜名湖周辺の加盟ホテル・料理店など各加盟店へ安定供給される。

ふぐ加工処理工場では、職人の見事な手さばきで見る見るうちに新鮮な天然とらふぐが解体されていく

身の引き締まったコリコリの天然ふぐをいただく!

この浜松市が誇る天然とらふぐを、舘山寺温泉の「浜名湖グランドホテルさざなみ館」でいただいてきた。いただいたのは、とらふぐ料理8品を含む会席(全13品)「遠州灘産とらふぐ会席」(1泊2食付1万8,000円~、1室2名~)。「ふぐヒレ酒」「ふぐ珍味三種盛」「ふぐ薄造り」「ふぐ鍋」「ふぐ皮サラダ」「ふぐ唐揚」「ふぐ雑炊」などのふぐ料理が所狭しと並んだ。ぜいたく……!

見た目にも美しい「ふぐの薄造り」

ふっくらとした身が楽しめる「ふぐ鍋」

ふぐの薄造りは見た目も美しく、目の前にすると気持ちが華やぐ。透き通った身を、細ネギをのせて巻いてもみじおろしの入ったポン酢でいただいた。コリコリとした締まりのよい身の歯ごたえがたまらなく、かみしめると何ともいえない甘みが広がる。

ふぐ鍋にした身は白くふっくらとしているが、それでもなおコリコリとした食感が楽しめる。新鮮さのなせる業だ。身をかみしめるごとにうまみが増し、また鍋の中の野菜とあわせて食べることでよりいっそうの甘みが感じられた。

漁場から加工処理工場、さらに提供する旅館などが一つのエリアにある浜松市では、新鮮、安全、比較的安価な天然とらふぐを食べることができるとのこと。さらに、「浜名湖かんざんじ温泉観光協会」では毎年10月から2月末まで「遠州灘天然とらふぐ祭り」を開催しており、舘山寺温泉内の12の旅館で天然とらふぐを手ごろな値段で味わうことができるという。

冬の味覚の王様、天然とらふぐ。それがとれるところに赴いて、その土地で食す。これ以上のぜいたくはないのではないだろうか。ぜひ足を運んで、その舌で確かめてほしい。