学生時代、「歴史」が嫌いだったという人によく出会います。でもそれはちょっともったいないなぁと思うのです。暗記教科として捉えれば確かに歴史はつまらないと思うのですが、"物語"として捉えた場合、歴史はとたんに壮大な一大スペクタクルロマンに化けるからです。

今からでも遅くありません。電子貸本Renta!に多数用意されている歴史漫画から、厳選したオススメ作品を紹介していきますので、まずは気軽な気持ちでページをめくってみてはいかがでしょうか。

きっと「歴史」を好きになれると思いますよ。

群緑の時雨

以前ご紹介した『ふたつのスピカ』の作者・柳沼行による時代劇で、舞台となるのは江戸時代初期。幕府が開かれた直後、まだ地方では小さな国同士の争いが起こっており、その小国の一つである士々国の武家で育てられている中谷霖太郎が本編主人公となります。

『群緑の時雨』(メディアファクトリー刊)

「父親が戦で背中を斬られて死んだ」という不名誉な噂で他の武士から蔑まされていた霖太郎ですが、武家の誇りを失わまいと鍛錬に励みながら毎日を送っていました。そんな霖太郎が親友となる志木府介や士々国家老の娘でおてんばなお姫様・差床伊都と出会い、友情を育みながら少しずつ成長していくのです――。

柳沼行という作者は、おそらくは現在活躍する漫画家の中でもトップクラスに"空気感"を描くのが巧い漫画家です。初連載となった「ふたつのスピカ」では宇宙飛行士を目指す少年少女たちの物語を見事な構成力と脚本力で描き切りましたが、このときからすでに人物描写と叙情的な空気感の作り方には天才的なものがありました。

「群緑の時雨」でもそうした力量はいかんなく発揮されており、現在2巻までRenta!で読むことができるのですが、もう最初から柳沼ワールド全開といった感じです。おそらく1巻と2巻は壮大な物語の序章にあたるような感じで、物語の展開としてはまだまだこれからといったところ。ゆっくりと物語が動き始めており、これから霖太郎や府介や伊都が運命の波に翻弄されていくのだと思われます。

柳沼行はアシスタントも使っていないそうで、決して筆の速い作家ではないのですが、ゆっくりと自分のペースで描いていってほしい作品です。巻数が出てからまとめ読みするのもいいのですが、できればぜひリアルタイムでゆったりと構えつつ「群緑の時雨」を楽しんでほしいと思います。柳沼行は器用な作家ではなく、だからこそ"今描けるもの、描くべきもの"を全力で描いています。そうした作家に寄り添うというのも、漫画の楽しみ方の一つなんじゃないかなぁと思うのです。

『江南行』(メディアファクトリー刊)

江南行

「三国志」は数ある歴史物のコンテンツでも特に人気の題材の一つです。漫画では横山光輝の「三国志」を頂点として、「蒼天航路」や「龍狼伝」など、正統派から変わり種まで多種多様な作品が発表されています。

「江南行」はそんな三国志をテーマにした漫画の中でも、呉の国と武将の魯粛をメインに据えたちょっと珍しい漫画。大抵の場合、三国志の主人公は劉備か諸葛亮、あるいは曹操あたりが選ばれることが多いので、呉、それも魯粛というチョイスは三国志ファンであれば「おっ」と思うのではないでしょうか。

また、三国志といえば武将や国同士の戦いに目が行きがちですが、本作はむしろ戦よりも魯粛や彼の周りに集まる人々との日常を丁寧に描いた描写に注目してほしい作品です。泣いたり笑ったりしながら必死に毎日を過ごす名も無き人々の姿は、現代人と何ら変わりないということに気付かされるはずです。

もちろん、三国志を知らない人でも、まったく問題ありません。古代中国の歴史ロマンと、そこに生きた人々の息遣いをぜひ感じ取ってみてください。

『幕末狂想曲 RYOMA』(リイド社刊)

幕末狂想曲 RYOMA

幕末という時代は、日本の歴史の中でも一二を争うくらい面白い時代。ならば、その面白さを120%堪能できる作品をオススメしたい!

ということで「幕末狂想曲 RYOMA」です。タイトルが「龍馬」ではなく「RYOMA」となっているところからもわかる通り、本作は単に坂本龍馬を主人公にした幕末本ではありません。いや、内容はちゃんと歴史の流れを押さえたストーリーになっているのですが、とにかくキャラクターが豪快で爽快! あの炎の漫画家・島本和彦も大絶賛したということで、もうそれだけでも雰囲気が伝わるのではないでしょうか。

中でも主人公の龍馬は、豪快一直線で竹を割ったようなまっすぐな性格の男として描かれており、本作ではそんな彼のパワーに引きずられるようにして歴史が動いていく様を、パワフルな画力で見せてくれるのです。

勝海舟が、高杉晋作が、桂小五郎が、西郷隆盛が、大久保利通が……坂本龍馬に魅了された偉人・変人・豪傑たちが織りなす幕末風雲伝。まさに「幕末狂想曲」と呼ぶにふさわしい一作です。