映画館監督の君塚良一氏とノンフィクション作家の石井光太氏が21日、東京・フジテレビシアターモールにて映画『遺体 明日への十日間』のトークイベントを行った。

映画『遺体 明日への十日間』のトークイベントを行った君塚良一監督(右)と作家・石井光太氏

作品上映後、拍手で迎えられた両氏。本作の原作となったルポルタージュ本『遺体 震災、津波の果てに』の筆者・石井氏は、「被災地に取材に行った際、ラジオから流れてくる報道は誰が義援金を払ったとかそんな話ばかりだったんですね」と当時を振り返ると、「震災の犠牲者は亡くなった方と、残された遺族の方々。皆さんの思いをなんとかして書かなければいけないという気持ちがありました」と執筆のきっかけを明かした。

綿密な取材の下、石井氏が紡ぎ出したのは、東日本大震災の津波に襲われた岩手県釜石市を舞台に、遺体安置所をめぐる真実の物語。映像化に挑んだ君塚監督は、「何もできない自分に後ろめたさを感じていた時に、石井さんの原作に出会ったんですね。震災直後の10日間に同じ日本でこんなことが起こっていたのかと衝撃を受けました」と話し、「僕ができることは映像化してこの原作をより多くの人に知ってもらうことだと思ったんです」と作品への思いを語った。

同作は西田敏行演じる相葉常夫を中心に描かれている。震災直後、遺体安置所として使われていた旧釜石第二中学校を訪れた相葉は、その惨状に言葉を失いながらも過去に葬儀屋として働いていた経験から、"遺体の尊厳"を周囲の人々に訴えていく。この相葉のモデルとなった男性に直接取材をした石井氏は、彼の言葉が、暗く冷たい安置所の中でとても温かく響いていたのだという。そして、「僕はその遺体安置所の悲惨さや死者の数を伝えたかったのではなくて、その場所で働いている人の言葉や姿勢がどれだけ尊いものなのかというのを描きたい一心でした」と観客に語りかけた。

映像化するにあたり、君塚監督には心に決めていたことがあった。「関係者やご遺族の方に取材はしなかったです。聞いたのは石井さんの原作を映像化することをどう思うのか。それで一人でもやらないでくれと言われればそこでやめようと思っていました」と君塚監督。そして、「現地であったことを伝えてほしい、それから今後どこかで起こるかもしれない災害のためにも日本中の人に伝えてほしいと言われて決心がつきました」と映像化に至る経緯を説明すると、「同時にそれは覚悟でもありました。現地の人の涙を目の前にした時、一生背負わなきゃならない責任を感じました」と振り返っていた。

そして、もう1つ。君塚監督が念頭に置いていたのは、原作を忠実に描くことだった。しかし、映画の中での相葉は靴をぬぎ、泥まみれの遺体安置所を裸足で作業していたが、実際のモデルとなった男性はそうはしていなかったという。そのことについて君塚監督は、「そのアイデアは西田さんから出てきました。ご遺体が並んでいるというのは家と一緒なんだから畳の上に土足で上がるわけにはいかないと」と語ると、石井氏は「(モデルとなった男性は)俺の気持ちをそのまま伝えてくれたと言っていました。実際はやっていなかったけども、まさにそのような姿勢でご遺体と向き合っていたからなのでしょう。僕はそれを聞いてホッとして映像化してよかったなと思いました」と安堵の表情を浮かべた。

同作は2月23日公開。映画の収益は被災地に寄付される。