富士通研究所は21日、スマートフォンなどの携帯端末でPCの画面を撮影するだけで、PCに表示したファイルを携帯端末に転送する技術を開発したと発表した。今後、商用化に向けた開発を続け、2014年度中の製品化を目指す。
新技術を説明した富士通研究所メディア処理システム研究所イメージシステム研究部主任研究員の田中竜太氏 |
スマートフォンやタブレット端末といった携帯端末が登場し、さらに機能向上していく中で、これまでPCでやっていた作業を携帯端末で行うことが増えてきた、と同社。しかし、PCとは違って「ファイルをやりとり するのに、まだ敷居が高い」というのが現状だ。一方、ファイル転送は、ケーブル接続では手間がかかり、無線LAN経由では設定が煩雑で、クラウド経由でのファイル転送は、業務データや個人情報を保存するのに不安があるという声も多いという。
今回の技術は、こうした現状に対して解決策を提供するものとして開発を行ったもの。利用方法としては、転送したいファイルを表示したPCの画面を、携帯端末のカメラで撮影するだけ。それだけで、現在PC上で開かれているファイルが、携帯端末に転送される、という仕組みだ。
PC上にインストールしたサーバーソフトウェアが、PCのIPアドレスの一部を明滅する微弱な光に変換。この信号は人間の目には視覚されないが、携帯端末側の専用アプリのカメラで撮影すると、LAN内のPCが特定され、PCと端末が無線LAN経由で接続される。その後、端末からサーバーソフトウェアにファイル転送の要求が行われ、サーバーソフトウェアは、指定フォルダに保存された最前面に開かれているファイルを端末側に転送する。
このIPアドレスを光の信号に変換するのは、同社が昨年6月に発表した「映像媒介通信技術」を活用。PCの画面上で2種類の光を明滅させ、0と1を表現して情報を送信する仕組みで、人の目には明滅は見えないが、リアルタイムに画面上に重ね合わせて(重畳させて)表示するため、常に表示していても、利用者には感知されないという特徴がある。
転送したいファイルを指定フォルダに保存し、それを開いておけば、後はスマートフォンなどのカメラで画面を撮影するだけで、自動でファイルを転送できるという直感的かつ簡単に利用できるのが最大のメリットだ。これによって、ケーブルや通常の無線LAN経由でのファイル転送のように接続・設定の手間が不要となり、クラウドのように外部へのファイル転送をする必要もない。利用用途としては、PCで作成したファイルをタブレットに転送して外出先で編集し、戻ったらそのファイルをPCに再転送する、プレゼン中に資料を参加者に配布する、プレゼン参加者が参考資料をプロジェクターに接続したPCに転送し、それを表示する、といったものが挙げられている。
現状のファイル転送技術の課題。ケーブルや通常の無線LANでは、接続や設定の手間がある。PCの画面を画像認識で読みとり、同じデータを端末上に表示する技術もあるが、無線LANなどで接続するための設定は必要。それに対して今回の技術はそうした手間がいらない |
同社では、今後ビジネス化を進めていき、企業の業務効率化ソリューションなどの方向性を検討していくという。
ただし、現状では16bpsの速度しか出せず、IPアドレスの一部しか送信していないため、データ転送もローカルネットワーク内でのルーター経由の送信になっている。人の目に感知されないようにしながら高速化を図り、ほかの情報を送信できるようにし、P2Pでのファイル転送への対応も検討していくという。
また、ファイル転送できる端末は、サーバーソフトウェア側でユーザー認証などを行って制御できるが、ファイルを最前面に表示しなくても転送できるような機能や、サーバーソフトウェアをWindows以外にも対応させることを検討するという。なお、現状ではサーバーソフトウェアはWindowsのみ、携帯端末はAndroid 4.xのみの対応となっている。
同社では、今回の技術について、2月下旬からスペイン・バルセロナで開催される通信関連見本市「Mobile World Congress 2013」の同社ブースで展示するという。
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・携帯でPC画面を撮影するだけでファイル転送が可能な技術を開発 - 富士通研究所 (2013年01月21日)