最近話題のご当地グルメに「伊勢崎もんじゃ」がある。なんとこのメニュー、イチゴシロップを入れるのが定番なのだとか。しかしどうにもこうにも、もんじゃとイチゴシロップは奇妙な組み合わせにしか思えない。そこで、実際に食べに行ってみた。
駄菓子店のおやつが伊勢崎もんじゃの始まり
もんじゃ焼きは“東京下町の名物”という印象も強いが、実は意外に全国で食べられている。幼い頃に駄菓子屋の片隅にある鉄板焼きで焼いて食べた、という思い出を持っている人も多いだろう。
その歴史は長く、古くからあった仏事用の菓子“麩(ふ)の焼き”がその原型だという。その後、江戸末期には、麩の焼きに使われていたみそを餡(あん)に変えた助惚焼(すけそうやき)に変化。最終的に、明治時代に入ってから今のもんじゃ焼きの形に落ち着いたとされている。
作り方は簡単で、小麦粉を多めの水で溶いて、キャベツなどの具材とソースを入れて混ぜて焼くのみ。焼く際にはキャベツで土手を作ってから生地を流し込んで焼くのが正しい、という意見もあるが、「もともとは子供が駄菓子屋で食べていたおやつ。別に食べ方、焼き方に流儀などはない」という声もある。
ところでこのもんじゃ焼きに、こともあろうかイチゴシロップを入れる地域があるのだ。いくらもんじゃ焼きは子供のおやつといっても、それじゃおやつすぎだろ、と思えるのだが……。
そのもんじゃ焼きとは、最近、某TV番組で紹介されたことでも有名になった群馬県伊勢崎市の「伊勢崎もんじゃ」だ。もともと伊勢崎市でもんじゃ焼きが広まった理由は、東京の下町から同市まで東武伊勢崎線が通っているから。途中、埼玉県にも寄り道しつつ、群馬県伊勢崎市にたどり着いたとされている。
しかし、イチゴシロップを入れる習慣は、東京にも埼玉にもない。その不思議な料理をぜひ食してみたく、東武伊勢崎線に乗って伊勢崎市を訪れた。訪ねたのは、昔ながらの伊勢崎もんじゃを味わわせてくれる「サッちゃんち」。
駄菓子店に買い物に来た地元の小学生や親子連れが、そのまま店の隅にある鉄板焼きでもんじゃ焼きを楽しむ伝統のスタイルを守っている。
なるほど! コレは照り焼きソースの味なのだ
「サッちゃんち」に到着し、懐かしい駄菓子の数々に思わず目を奪われつつも、壁に貼られたメニューを見てみると「あま」と「あまから」というものがある。どういう意味かと尋ねたところ、「あま」はイチゴシロップ入り。「あまから」はイチゴシロップとカレー粉を入れるのだそう。
そして、気になる伊勢崎もんじゃとイチゴシロップの関係についてもおかみさんに聞いてみた。
「なんでシロップを入れるのかなんて、地元じゃ誰も気にしてないのよ。ただ、私が子どもの頃は、駄菓子屋でチョコレートをもんじゃに入れたりしたんだけど、間もなくしてそのチョコレートが発売されなくなったのよね。その頃じゃないかしら、かき氷用にあったイチゴシロップを入れ始めたのは」とのこと。
子供は甘いものが好きで、なんとなく駄菓子屋にあった甘いものを、おやつのもんじゃと合わせて楽しんでいたのではないかと推測されるということか。
いよいよ、「あま」をオーダーしてみる。見た目はほとんど普通のもんじゃ焼きだが、うっすらピンク色がかっているようにも見える。鉄板に流してみれば、さして赤みが気にならなくなる。やや濃いめの茶色といったところか。香りもやや甘めに感じるものの、至って普通。
そして、もんじゃ専用の小さいへらを使って、えいや!と口に運ぶ……。ん? まずくはない。むしろおいしい。そして何か、どこかで食べたことがあるような気がしてくる。
そうだ! 照り焼きソースの味だ。とろみがあってしょっぱ甘い、照り焼きソースなのだ。チキンに乗せても成立しそう。甘めの料理もOKの方ならば、予想以上においしく食べられる。
やや、辛味も欲しい方には、カレー粉入りのあまからもおすすめだ。カレー粉の力で、甘いもんじゃの味にエッジがたって、ほどよいバランスとなる。
12時頃から18時頃の営業だそうだが、季節により営業時間は変わる。訪ねた時はまだちょっと早めの時間だったが、学校の授業が終われば、子どもたちの笑顔が店内に溢(あふ)れるのだという。あえて下校時間帯に合わせて来店し、ランドセル姿のお客さんたちと一緒におやつを楽しむのもいいかもしれない。
●information
サッちゃんち
群馬県伊勢崎市寿町208-3